【書評】『日本企業の勝算―人材確保×生産性×企業成長』byデービッド・アトキンソン

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菅総理大臣に影響を与えているとされる、デービッド・アトキンソンさんの最新作。オックスフォード大学で日本学を学んだイギリス人ということで、日本に対する愛情にあふれているのが分かりました。だからこそ、日本に手厳しい主張となっています。しかし、これがとっても的を得ていて、大筋で著者の主張に同意できました。

著者の主張は以下の通りです。

  1. 少子高齢化社会では、現役世代が、たくさんの高齢者を支えていかなくてはならない。
  2. そのためには、現役世代の生産性を高めないといけない。すなわち、労働生産性を高めないといけない。
  3. しかし残念だが、日本の労働生産性は、データをよく見ると、低い。このままでは、日本はもたない。
  4. 日本の労働生産性が低い原因は、規模の小さい企業数が多いためである。労働生産性は、企業規模と強く相関している。(杉山注=これは、直感的に、誰もが納得することでしょう。大企業>中堅企業>零細企業、という順番で、生産性は高く、給料も高いです。)
  5. なぜ規模の小さい企業数が多いかというと、規模を大きくするインセンティブがないからである。日本では様々な方法で中小企業は優遇されており、中小企業で居続ける方が合理的な経営判断となっている事が多い。
  6. 中小企業を優遇する政策をやめて、企業の規模を大きく、成長するインセンティブを与えれば、日本経済の労働生産性は高まり、社会はもっと良くなる。
  7. これをやるしかない。そうでないならば、長寿を諦めるか、破綻するか、である。結局、これしかない。

端的に書きましたが、本文ではっこう過激な内容もありました。「成長しない零細企業が成長しないままでいつまでも居続けるのは、社会的に迷惑」とか「自分たちファミリーが豊かな暮らしをできるようにするために、社員を働かせているような中小企業の経営者」とか。でも、僕も地方都市で社員数75名程度の中小企業を経営して8年が経過しましたが、僕の肌感覚とも随分合致します。いろいろと見聞きしました。

アトキンソンさんの主張に、僕の考えも追記し、補足すると、こんな感じになります。

  1. 中小企業を優遇する政策は、かつては非常に合理的だった。人口が増え、経済水準がまだそれほど高くないときは、国民全員が高等教育を受けることは難しかった。端的にいって、みんなが大学にいけるわけではない時代に、高卒、中卒の方の雇用の受け皿として、中小企業は大事だった。
  2. しかし、いまや日本は経済水準の高い、先進国である。大学全入時代と言われるいまの日本では、中小企業の優遇政策はもうやめるべきである。現代は、中小企業でも大学卒を採用できるような時代である。そんな時代では、中小企業を無条件に甘やかすのではなく、成長志向の高い中小企業を、厳選して支援するべきである。たとえば、「地域未来牽引企業」の認定を経済産業省から受けられるような企業のみを優遇する、とか。
  3. 例えば、50人以下の事業規模だと、「安全衛生委員会の設置」の義務は免除されている。100人以下の企業規模だと、「障害者の2.2%雇用」の義務は免除されている。規模が小さいと、安全はないがしろにしても良いのか?規模が小さいと、障害者を雇わなくても良いのか?僕は、そうは思わない。これら免除がなくなり、優遇政策がなくなっていくことで、負担が増え、経営がたちいかなくなるならば、そんな企業は、市場からぜひ退出するべきである。
  4. 「雇用を守らないと」などと言われそうだが、日本は慢性的な人手不足社会である。成長していく企業が、雇用の受け皿に、ありがたくなってくれるから、大丈夫。
  5. 成長できない企業の経営者は、より優秀な経営者が経営し成長する企業で、中間マネージャーとして活躍すれば良い。本人の技量などにもよるが、係長、課長、部長、本部長、などとして。
  6. 同族経営をしている中小企業ファミリーの中には、社会にとって害悪な既得権益者が存在する。社会をよくしたいというより、自分たちファミリーが豊かで居続けたいだけなんでしょう、と言いたくなるようなケース。これは、かなりの人が大なり小なり思い当たる例が周りにあるのでなかろうか。世論も支持すると思う。
  7. 雇用の流動化をもっと高めるべき。
  8. 国家としての義務教育は、中学までになっているが、それよりも高い高等教育も重要である。教育格差が再生産されるような現状を是正する教育政策をうつべきである。
  9. 「松下幸之助は、大学にいっていない。」とか「スティーブ・ジョブズは大学を中退している」という例外だけ持ち出すのはよくない。もちろん、例外は存在するし、大学にいっていなくても、素晴らし人材はいる。しかし、一般に、質の高い経営者は高い教育を受けよく訓練されている。トヨタの社長もソニーの社長も、現在のアップルの社長も、グーグルの社長も、みんな、高い教育を受けている。このことを直視して、教育政策を見直すべきである。現状の日本の大学は、レジャーランドと化している。
  10. 下請法は、対処療法として有効であるが、根本的に日本経済の問題を治療したいなら、上記のようなことをやるべきである。

僕は、両親や祖父母に長生きしてほしいし、国家の破綻も望んでいません。たぶん、多くの人がそう思っているはずです。となると、もうこれしかないのかなと思いました。痛みは出るけれと、改革って、そういうものだから、しょうがないと思います。

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