【書評】『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』

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とってもエキサイティングな良書でした。タイトルの「700兆円」を聞くと途方もない数字に思えますが、以下のような単純な計算をすれば、現実的なことが分かります。

世界人口が70億人として、1日3食、年間で約1000食べているとして、全部で7兆食。一回あたり「あと100円支払うから、もっと満足度の高いものを食べたい」とすれば、市場規模は700兆円になります。

「◯◯テック」や「スマート◯◯」という言葉が氾濫していますが、食に関する、「フードテック」「スマートキッチン」というフレーズは、日々の生活に直結する最重要テーマだと僕は思います。混雑した店で「あと100円払うから、待ちたくない」と思ったり、「あと100円払うから、もうちょっと美味しい食材にしてほしい」と思ったりすることは、けっこうあると思います。

僕の亡くなった祖父は生前、「あと10年生きるとしても1万回しかご飯を食べられない。一回たりとも無駄にしたくない」と言っていたらしいのですが、まったくその通りです。

こういった消費者のニーズ、困り事、需要(クリステンセンの言葉を借りれば「片付けたいジョブ」)を、テクノロジーが解決するというのは、ロマンもあるし、わくわくしますね。だから、「とってもエクサイティングな本」と書きました。

現実にフードテックをビジネスにしようと思うと、まず料理レシピに「強火でじっくり」とか「胡椒少々」という表現があって、ここでエンジニアとしては困ったことになります。「強火って何度?」「じっくりって、何分?」「少々って何グラム?」と思うわけです。もっと定量的表現に変えて、同じ味を完璧に再現できるようにしないといけません。

こう書くと、スマートな調理器やロボットが人間の代わりに料理をしてくれて、人間は食べるだけ、という世界をイメージしがちですが、そうとは限らないみたいです。大量に効率的に料理をこなす、という側面も重要だとは思います。しかしそれだけではなく、反対に、料理のプロセスそのものを楽しんだり、一家団欒を楽しんだりする、という時間の使い方に、人間はより価値を見出すようになるのではないか、ということです。そのとき、栄養をちゃんととれるようにスマートキッチンなどが誘導してくれたりする世界のほうが、実際には重要なのかもしれません。

ホールフーズを買収したアマゾンは、アレクサ(AIスピーカー)をコアデバイスとして、そこまできっと考えていると思います。「スマート冷蔵庫」とか、聞くだけでライザップ魂がくすぐられます。

ユダヤ人の諺だったかで、「仲間や家族とみんなで食卓を囲み、美味しいご飯をお腹いっぱい食べる。これ以上の幸せがあるだろうか?」というものがありましたが、まさにその通りだと思います。

最近の筋トレブームと合わせて考えると、いかに健康に、豊かな食生活を送るか、ということを追求する方向に人類はいまいて、テクノロジーやビジネスはそれを後方支援すべきなのかな、と思いました。本書では「ウェルビーイング(Well Being)」というフレーズがこのことを表現していました。

本当に素晴らしい時代に生まれたなと思います。消費者としても今後フードテックの恩恵に預かれますし、ビジネスマンとしてフードテックは大変やりがいがある仕事です。

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