12.16のFRBのゼロ金利政策によって日米金利が逆転し、円高に進んだ、というニュースが流れた。これは円キャリーをする価値がなくなった、というように受け止められていると思う。
円キャリーとは、日米金利差に注目した取引で、「濡れ手に粟」であるかのような印象をみんな持っている。だがちょっと待てほしい。フリーランチはないはずという無裁定条件を考えると、円キャリーも「おいしい思いは出来ないように」為替が決まっていたはず。
仮に今、1ドル=X円、日本の金利がr_J, アメリカの金利がr_Aとする。円キャリートレードで荒稼ぎを狙うべく、Y円の資金を円建てで調達し、即ドルに買えてドル建てでn年の運用を考えるとしよう。Y/Xドルに対して毎年r_Aの金利が付くので、n年後には、Y/X(1+r_A)^nドルになっている。他方、Y円を円建てでn年運用した場合は、n年後には、Y・(1+r_J)^n円になっている。
さて、n年後に円キャリーがフリーランチにならないということは、Y/X(1+r_A)^nドル=Y・(1+r_J)^n円になっているはず、ということ。すなわち、n年後の為替レートは、
となるはず。今まで、r_J<r_Aだったということは、円キャリーをする人のフリーランチを消滅させるべく、n年後に為替が円高の方向に動いたはず、という当たり前のことをこの数式は意味している。ちなみに、円キャリーを開始するn=0の時点では、円を売ってドルを買う動きが強いので、円安ドル高の圧力がある点に注意。円高圧力は、n年後に向かってだんだん強くなる、という為替レートの経路を頭で描いて欲しい。
理論的にはフリーランチは無いはずにもかかわらず、円キャリーを行ってきた経済主体がたくさんいたわけ。その背後には、円キャリーを行ってきた経済主体が、円安観測をもっていたことが挙げられる。正確に言うと、上記式で表す水準ほどには円高にはならないだろう、という円安観測をもっていた、ってこと。
そして現実に、円キャリーは成功してきた模様。つまり現実には、上記の数式で表す水準ほどには円高にならかった・・・どころか、だいぶ円安の水準にいたんじゃないか。
ではなぜ円キャリーは成功できたか(=金利差に基づく為替の説明が外れ、円安のままだったか)、というのは、研究対象としてかなり興味深いのだが、その知的好奇心はひとまず封印。
過去のことより、今後はどうなるだろう?上記の数式で、r_A≒r_Jになったということは、円キャリーをする価値がなくなったことを意味する。すなわち、現時点をn=0とすれば、その時点では、ドルを買って円を売る動きは弱いので、ドル安円高に向かう。しかし、n年後に向かっての金利差による円高圧力はなくなったことを意味する。今まで金利差による円高圧力があったにも関わらず、円安水準でいたわけだから、円高圧力がなくなった今は、より円安に触れるんじゃないだろうか?というのが、楽観的な見方。
さて、金利による為替の説明は、短期のそれ。長期では、物価水準で決まるはず。ppp理論は、机上の空論のようで、それなりにreliableかなと思う。とすれば、デフレの日本vsインフレのアメリカ、という今までの構図ではやはり円高圧力があったが、これからインフレが日米で同じくらいになりそうであれば、その圧力もなくなる。
結局、長期でも短期でも円高圧力はない。今の円高相場は、適正水準とは思えない。つまり、非合理的なレートだと思う。みんないっている「円が高いんじゃない。ドルが安いんだ」という言葉が聞かれるようになったのはその証だと感じる。それだけexchange marketがinefficientになっているのかな、ってのが率直な感想。exhange marketが合理的で効率的ならば、そんな表現が聞かれるはずがないと思う。つまり、みんな異常にアメリカ経済を過剰に不安視した結果、ドルがmis-pricingされているんじゃないか(あるいは同じことだが、円がmis-pricingされているんじゃないか)。
まぁいろいろ書いてきたが、EMH(Efficient Market Hypothesis)が正しければ、為替レートもrandam walkして予想が不可能ってことになるわけで、予想する労力自体ムダなんだけどね。でも、僕としては、いまの為替レートは非合理で非効率的だと感じていて。とは言え、だからといって為替で儲けよう、というほどの猛者ではないんだが(むしろはやく適正水準に戻ってほしいと切に願っているんですが、アメリカがんばれ)、ちょっとドルポジションがロングになってしまっているので、為替について考えてみた次第。
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