雑記(Scribbling)

『不完全性定理―数学的体系のあゆみ』の読書感想


非常に勉強になったし,知的に楽しかった.僕は数学者ではないので,理解できないところもあったし,誤った理解をしている部分もあるかもしれないが,本書を通じ,ここまでの人類の知的な営みが到達した偉大な業績に触れることが出来たと感じた.
目次はこんな感じ.

第1章 ギリシャの奇跡 
第2章 体系とその進化
第3章 集合論の光と陰
第4章 証明の形式化
第5章 超数学の誕生
第6章 ゲーデル登場

第1,2,3章は数学の歴史.第4,5,6章は超数学の平易な解説.特に美味なのは第6章で,ゲーデルが証明してしまった「不完全性定理」についての解説が為される.
カンタンにあらすじを書く.
第1章では,「仮定を置く」という行為を行った古代ギリシャ人の偉大さについて触れる.「点の面積は0」というのは,仮定であって証明できることではない.事実かどうかは分からないが,「そうだと仮定すればいろいろ都合よくその後の議論が出来る」ということで,「正しい根拠はないが,そうだと仮定してしまえ」とやった.「なぜ?」という疑問に答えることを棚上げしてしまったと言ってもよい.続いて,仮定から導かれる定理を厳密に証明する作業を行ったユークリッドの『原論』の偉大さについて触れ,公理系の大切さに触れる.
第2章.ユークリッドの公理系の穴を埋めようと努力した偉い人たちのお話.こういう努力が公理系を進化させた.
第3章.カントルの集合論の登場.[pp.110]より引用すると,彼の登場によって,

無限にも程度があって,小さい無限,大きな無限,もっと大きな無限,等等が存在することなどが分かった.

現代人は数学の授業などで割りと当然にようにこれを習うが,当時にしてみればセンセーショナルだったらしい.当然か.当時の数学界の大ボス,クロネッカーはカントルの集合論を攻撃したらしいが,次世代のスーパースター,ヒルベルトに評価され,受け継がれたらしい.
第4章.集合論の登場によって,数学には危険があるのでは?という議論が活発になり(例えばカントルのパラドックス,ラッセルのパラドックスなどが引き金となった),数学のさらに厳密な基礎付けをやろうという動きが出てくる.そんな動きの中,証明の形式化が進んだようだ.証明の形式化とは,「意味」と「数学」を切断する,というイメージに僕は感じた(追放ではなく,切断!).大雑把に言えば,証明をコンピュータにも出来るようにすること.コンピュータにも出来るということは,一切の主観が排除された,信頼できる結果だろう,ということだと思う.
第5章.超数学の登場.超数学とは,「数学の数学」という感じ.数理哲学とは別物らしい(ここら辺から,何を言っているのか難しくなってくる).要は,「数学って論理的で厳密で客観的だと信じられてきたけど,それ,本当?」ということを,数学を使って証明しよう,ということらしい.そして,「おう,数学って安全だぜ」ということを言いたい.それがゴールだと思われていた.
第6章.ところが,ゲーデルが,「数学って安全ではないかもしれない」ということを数学的に証明してしまった.それが有名なゲーデルの不完全性定理で,次のようなもの([pp.246]より引用).

自然数論を含む述語論理の体系Zは,もし無矛盾ならば,形式的に不完全である.

「形式的に不完全」とはどういうことかを説明する.ある数学の文章Pがあったとしよう.Pは,例えば「2は偶数である」とか,「3の2乗は9である」とか,なんでも良い.このPは真が偽かのどちらかで,通常,真偽は判定できる.どんなPを持ってきても,真偽を判定できる体系を,「形式的に完全」と言う.すなわち,「形式的に不完全」とは,「真か偽か判定できない文章が紛れ込んでいる」体系ということである.
これでは困る.自然数論において扱う自然数の性質について述べた文章Pがあったとき,それが真か偽かを判定できないとうことは,この体系は,自然数の性質について完全に捉えることができていない.だから,この定理を「ゲーデルの不完全性定理」と呼ぶ.
「ゲーデルの不完全性定理によって,人間の知性のある一つの限界が,人間の知性によって証明されてしまったのだ!」という驚くべき結果に向かって,古代ギリシャから脈々と受け継がれてきた人類の英知の挑戦,ロマン,ドラマ,数学の歴史が紐解かれている本書は,本当に知的に興奮した.
本書は,小飼弾さんのブログ,404 Blog Not Found経由で知った.小飼弾さんは,このblogなどを見るにやたらインテリという印象を持つが,その小飼弾さんが

もしかして、今まで読んだ数学書の中で最高傑作かも知れない。

と言うだけあった.

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