この本の想定読者層に、僕は入っていないな。統計学、経済学の知識ともに、僕のほうが著者より上だろう。あまり学ぶことはなかった、というか、それどころかツッコミたくなるポイントもいくつかあった。例を二つ挙げておく。
一つ目。「ニューヨークの犯罪率低下は、実は割窓理論の効果はそれほど大きくなかったんじゃないか」という議論をしているところで、「通説を疑う」姿勢は共感できるけど、著者がこう主張する根拠こそ、ぼくからするとぜんぜん信頼できなかった。
具体的には、第一にニューヨークの犯罪率を強盗発生率でもって代理変数とみなしていることの根拠をなにも言っていない。第二に、説明変数として「全米失業率」と「割窓理論ダミー」の二変数しかもってきてないが、ほかの変数をつっこんだ場合の結果はどうなるか気になる。実際、著者自身、ほかの要因として「少子化」を挙げているが、なぜこれを説明変数としていれなかったのか?この時点で、「大事な説明変数を落としています」と堂々と宣言しているようなもの。つまり、自分で「自分の推定結果には一致性がないです」と言っているようなもの。
二つ目。「刑務所が定員オーバーになってきているのは、犯罪件数が悪化したから」という通説に対して、著者は「格差拡大によって増えたホームレスが、衣食住を確保するためわざと刑務所に入るようになったからだ」と言っているが、なんの根拠も示していない。しかも、ホームレスが犯罪を犯して刑務所に入る以上、結局のところ、犯罪は増えているわけだから、通説は正しいということになる。結局なにが言いたいのかよくわからない。
「統計数字を疑う」というタイトルの本書では、「一見○○だけど、実は□□である」ということがいっぱい書かれている。「一見○○」が間違っているということを示すために、著者が示す「実は□□である」の部分も、僕からしたら「ぜんぜん信用ならない」ということ。そんなに簡単に真理はみつからない。簡単に見つかるなら、それは真理ではないし、研究者は苦労しない。
「通説を疑う」姿勢のみ評価できる。
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