本書の概要
KJ法の解説で有名な本の改訂版です。初版は1967年出版らしいのですが、これは2017年出版になります。gesture(ジェスチャー)のことを”ゼスチュア”と表記するような時代の本ですが、今読んでもとっても勉強になります。というか、53年も前に、こんな本が書かれていたことに驚きました。時間の淘汰に耐え、未だに読まれる、不朽の名著とは、本当に読んでいて気持ちがよいです。
僕はKJ法については、「ブレストの時に、ポストイットを使って、アイディアを整理する手法」くらいの理解しかなかったのですが、本書を読み、正確に理解することが出来ました。僕の言葉で言うと、「KJ法とは、ブレスト後に情報を整理し、再結合し、面白いアイディアへと昇華させていく、体系化された手法。」です。
です。著者自身も、
ブレーンストーミング→KJ法→パート法の三つの方法が、三位一体的に関連的に鍛えられているのが、ひじょうに望ましいであろう
位置: 1,864
と書いています。ここでパート(pert)法とは、具体的な行動計画を考えるための手法です。3つの方法とは、具体的には、こんな感じです。
- まずブレストでアイディアを徹底的に出し、発散させます。ブレスト4原則は、批判しない・臆せず言う・量が大事・最後にまとめる、です。
- 次にKJ法を使って思考を整理し、再結合させ、ある結論やブレイクスルーへ到達させます
- 最後に、pert(パート)法で、それを計画に落とし込み、実行します。
で、肝心のKJ法ですが、おおざっぱに説明するとこんな感じです。
KJ法とは
STEP1=グルーピング
まず、いま手元には、たくさんのデータ、記録、情報、メモ、などがあります。しかも、大量にあります。情報どうしに、どういう関係があるかわかりません。これを、グルーピングしていきます。コツは、小さく小分けのグループをつくることです。「まずはMECEに、こんな感じで切り分けていこう」はNGです。「MECE」と言っている時点で、自分の知っている、既存の思考の枠組みに捕らわれています。ブレイクスルーをしたいわけです。アイディアを再結合させ、自分でもびっくりするような境地へ辿り着きたいわけです。みんながびっくりするような、「発想」をしたいわけです。
STEP2=図解(右脳の出番)
「グルーピングされた情報」を図解していきます。ホワイトボードなどで、これとこれがこういう関係にあるかなぁ、とかやっていく感じです。右脳で、直感的に、やっていきます。
STEP3=言語化(左脳の出番)
これはちょっと長いですが、KJ法のキモなので、引用します。
それらに基づいて取りだされた、アイディアの出発を促すような基本的な一小チームのデータ群のことを、私は「基本的発想データ群」と名づけた。ここに発想法のもっとも基本的な秘密の一つがある。このようなチームを、かりに英訳でもするならば、ベーシック・アブダクティブ・データ(basic abductive data)略してBADとでも呼べばよかろう。簡略化のために、以下主として「BAD」という言葉を用いよう
位置: 1,403(赤字はsugi-shunによります)
BADは、右脳をつかって出てきた、イメージの事です。これを、今度は左脳で検証するという作業に入ります。今度は、イメージをみながら、言葉で説明してみます。ここで、しっくりこないのならば、なにかが間違っているということになります。しっくりきている部分は、そのままでOKです。右脳で直感的にいってあっているときと、まちがっているときの、両方がありますよね?それを、ここで検証する感じです。
この思考工程は、快感だと著者は述べています。どのくらいの快感かというと、
これは私の推量にすぎないが、じつはKJ法AB型とおなじような手続きが、ポアンカレの頭のなかでも進行していたのではないかと
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とまで言っています。(ここで「KJ法AB型」とは、まず右脳をつかって図解してから、左脳で言葉で図解との食い違いを処理している一連の工程のことです。)僕も、ポアンカレほどではないですが、人生に何度か知的快感を味わったことがあります。やめられなくなり、寝食を忘れ、次から次へと湧いてくる知的好奇心やアイディアに溺れるでもなく整理しきるでもなく、あぁ、きっとこの先にはすばらしい結末がまっているんだろうな、と思うような、そういう知的快感です。これは、あらゆる人間の快楽の中で、一番の快楽だと断言できます。論文を書いていた時に感じたことがありました。それから、事業計画をかいているときにも、そういう恍惚感をあじわったことがありました。
ポアンカレのような天才でなくとも、そういう恍惚感を味わえる手法がKJ法だということならば、本当に読む価値のある本です。なお、著者自身も書いていますが、もちろん鍛錬が必要です。
さいごに(あわせて読みたい本)
KJ法の著者は京大の教授で、研究するための思考の技術を体系化した、というのが最初の動機でした。しかし、あまりにすぐれていたので、ビジネス研修などでもつかわれるようになったみたいです。本書でも、会議への応用の例が紹介されていました。産学官とわず、だれもが楽しめる作品です。
まず右脳がきて、つぎに左脳、という順番になっているのは、右脳重視のデザイン思考思考にも通じると思います。左脳重視のロジカルシンキングも、もちろん大事なのですが。
最後に、関連するオススメの本を紹介します。
- アイディア出し
- アイディアの文章化
- デザイン思考(右脳のトレーニング)
- ロジカルシンキング(左脳のトレーニング)
- 会議
全部オススメなので、ぜひ読んでみてください。