『これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学』の読書感想

 

 サンデル。ちょっと前に読んでいたのだが、今更ながらブログに読書感想を書こうかなって。まぁ、なんだかんだいって読んでよかったというのが素直な感想。というか、社会的責任のある立場の人間は、絶対に読まないといけないんじゃないかな、これ。ちょっとぶ厚めで、やや眠くなったりもするけど、重要なことがたくさん書かれていた。
で、さらっと内容を。冒頭(p29)にもあるように、この本で正義へ3つのアプローチを紹介している。
アプローチ1は功利主義的な考え方。要は社会全体の幸福を最大化するようにするべきだろう、という考え方。ミルとベンサムの微妙な違いとかにも言及していた。この考え方によれば、1人を見殺しにして、10人助けるのは正義。経済学では暗黙の前提に置かれているアプローチだと思う。僕も、当然のごとく功利主義的な考え方に染まっているわけだけど(経済学修士までやっちゃったからな・・・)、どう考えても功利主義に問題がある事例が出てきて、戸惑った。それはこういう状況。電車が暴走してて、レールのずっと先に5人の作業員がいる。でも、違うレールにハンドルを切れば、5人は助かるけど、そっちのレールの先にいる1人の作業員は死ぬ。この状況で、ハンドルを切るべし、というのが功利主義の考え方で、それなりにみんなこの判断を受け入れる。だけど、この列車を止めるために、たまたま近くを歩いていた肥満体型の人間を線路に突き落とす行為は、みんな反対する。いったい、この差は何?サンデルは、本質を考えるために、余計なことを考えなくていいような状況を仮定する天才だよ、ほんと。
アプローチ2はリバタリアニズム。自由主義。経済学の思想で言えば、フリードマンとかシカゴ学派とかかな。私は私のものであって、ほかの誰のものでもないのだ、という信念を徹頭徹尾貫くひとたち。極端なリバタリアニズムでは、地震への義援金もあげる必要はないということになってしまって、なんだか気持ちわるい。それが正義だと感じる人は、この世にそれほど多くはないはず。
アプローチ3は美徳や善良な生活との関係で考える。まずカント。カントの下り、難解で何いってるかさっぱりわからん。と言ったら、父に「カントの下りの邦訳はダメだよ、ちゃんと原著読まなきゃ」と言われた。わからんなりに僕の理解を書くと・・・「重要なのは人間の尊厳。それを踏みにじるような行為はすべてダメ」って感じ。例えばカントの売春を批判するロジックはこう。「売春は一見、当人たちの自由意志に基づいていて、リバタリアンはOKとするかもしれないが、それは違う。売春なんか、心の底でしたい人はいないはず。貧富の差があるからこそ、売春という、人間の尊厳を損なう行為を強要されているのであって、それは自由意志ではない。尊厳が大事ということになれば、売春は悪い行為だ」こんな感じ。
アプローチ3の続き。ロールズの無知のベールを紹介。大学でロールズの無知のベールを習ったとき何も感じなかったけど、いま読むと「無知のベールをかぶってるのに、経済主体は自らをリスク回避的主体と知ってるって、おかしくね?」って思った。ま、それはおいといて。
しかしロールズは、努力すら恵まれた育ちの産物だと言う。(p206)
これはねー、けっこう心に刺さったわ。
そしてこの本、というかサンデルがすごいのは、三つのアプローチを淡々を説明した上で、最後に
これまで提示してきた哲学的議論と取り組み、そうした議論が社会生活においてどう展開されるか観察してきた結果、私はこう思う。選択の自由は-公平な条件の下での選択の自由でさえ-正しい社会に適した基盤ではない。そのうえ、中立的な正義の原理を見つけようとする試みは、方向を誤っているように私には思える(p284)
とはっきり自分の意見を述べているところ。人の意見を淡々と紹介した上で、明確に自分の意見を区別してstateしている。すごい。で、さらにサンデルの考え方によれば、理想は「共通善に基づく政治(p336)ということになる・・・ん?よく意味がわからないぞ。最後のほうはアリストテレスも出てきて、正直僕はよくわからなくなってしまった。一番わかりやすくサンデルの考えを表現しているのはこれかな。
公正な社会は、ただ効用を最大化したり選択の自由を保証したりするだけでは、達成できない。公正な社会を達成するためには、善良な生活の意味をわれわれがともに考え、避けられない不一致を受け入れられる公共の文化をつくりださなくてはいけない。(p335)
単純な経済学的な思考だけではダメだなと思わせるに十分な本だったので読んでよかった。というか、正義について熟慮したことないリーダーってどうかなと思うし。

「『これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学』の読書感想」への2件のフィードバック

  1. アプローチ1って、よく聞くけど。
    タモリが、
    『そもそもサンデルは間違っている。電車にハンドルはないから、レールに従うしかないんだよ』
    って言ってた。
    この二択を迫られて、それ以外の3つ目の選択肢を考える。
    ひねくれ者と言われても

  2. いや、タモさん間違ってるよ。究極の状況を仮定することで、何を正義だと感じるかを見極めることがサンデルの目的だもん。

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