85円でも円高じゃない・・・かどうかは、いつと比較するかによる

円高が最近の専らの話題。「85円でも実質でみたら実は円高じゃない、むしろ円安なんだ」、という主張をたまに聞くのだけど、それについて思ったことを書く。

まず、「85円でも実質でみたら実は円高じゃない、むしろ円安なんだ」、という主張の論理はこんな感じ。例えば、10年前と比較してみる。2000年8月の名目為替レートは、1ドル=約108円だった。で、アメリカの物価は、この10年で25%上昇した(CPIベース)。他方、日本の物価は、この10年間で3%下落した(CPIベース)。10年前、アメリカで1ドルで買えたものは、1*1.25=1.25ドル払わないと買えなくなったということですね。他方、10年前、日本で108円で買えたものは、108*0.97=104.76円払えば買えるようになったことですね。1.25ドル=104.76円=になるはずで、それってつまり1ドル=83.808円ですね、というのが、「物価水準を考えて、実質で見たら、10年前の108円は、いまの83.808円」という意味。というわけで、10年前と比べたら、確かにいまの85円は円高ではない。むしろまだ円安なくらいだ。「名目為替だけじゃなくって、実質為替をみろ」とは、こういうこと。

じゃあ、例えば1995年4月と比べたらどうだろう?79.75という史上再高値を記録した当時の超円高レートにいま見舞われるとすれば、54.65円という計算になる。アメリカは1995年4月から比べて、約43%物価が上昇した。他方、日本は2%下落している。95年4月にアメリカで1ドルで買えたものは、1.43ドル払わないと買えなくなり、95年4月に日本で79.75円で買えたものは、79.75*0.98=78.155円で買えるようになった。だから、1.43ドル=78.155円になるはずで、それはつまり、1ドル=54.65円、という計算。というわけで、いまの84, 5円なんて、当時の感覚からすれば、全然円高じゃないよね、ということになる。「円高円高って騒ぐな、こんなの介入するほどの円高じゃないよ」という意見は、ここからくる。

じゃあ、じゃあ、2003年8月と比べてみたらどうなるか?当時の名目レートは約118円。日本は2003年8月から1%程度物価が下がった。アメリカでは18%上がった。1ドル×1.18=118円×0.99になるはずで、それは1ドル=99円。あれ、いまの85円って、かなり円高じゃないか。

まとめると、「実質で見たらいまの85円は円高じゃないんですよ」という主張は、どの時点と比べるかによって、正しくもあり、間違いにもなる。

じゃぁ、1990年と比べたら?1985年と比べたら?ねぇねぇ、どの時点と比べたら、どうなるの?ということを知りたくなったので、グラフを描いてみた。

 

 

 

 

繰り返すけど、85円が円高かどうかは、いつと比べるかによって「いやまだ円安だし」とも言えるし、「いや、かなり円高だな」とも言える。

ちなみに、実質為替は交易条件とも言われる。名目為替レートが、通貨と通貨の交換レートであるのに対して、実質為替は、財と財(モノとモノ)の交換レートだから。世の中にはポジショントークをするために恣意的に都合の良い過去を選んで、「実はまだ円安なんですよ」って言っている人もいるかもしれないので、気をつけるべし。そういうこのブログもポジショントークかもしれないので、真に受けずに自分の頭で考えられるようになるべし。

以上、自戒を込めたエントリー。

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