大変な良書でした。さすがアマゾンでベストセラー1位をとるだけはあります。最近のロシアによるウクライナ侵略問題とか、緊迫するアジア情勢とかに対する理解を深めたい方には、かっこうの一冊です。
タイトルのセンスが抜群です。内容は、「わかりやすい国際情勢」とか「わかりやすい国際法入門」とかでも不思議ではないのですが、「13歳からの地政学」は、響きました。僕も自分で読んだ上で、周りに強くオススメしようと思ってしまいました。
さて、そのタイトルにある「地政学」とはwikipediaによると、下記の通りです。
地政学(ちせいがく)は、国際政治を考察するにあたって、その地理的条件を重視する学問である
wikipedia
地球儀を眺めるとわかるのですが、地球上で、各国がどこに位置するか眺め、地理的な要因を考えると、それぞれの国が、それぞれの主張に、なぜこだわるのか一目瞭然です。本書ではこのことに注目し、タイトルの通り、「13歳」でも理解できるように、わかりやすく、小説風に書かれています。
具体的には、北朝鮮の核・ミサイル問題、中国による海洋進出野望問題(尖閣諸島で領海侵犯問題、南シナ海での力による一方的な現状変更の試み問題)、ロシアとの北方領土問題、沖縄の米軍基地問題などについての理解が深まります。
例えば、中国が海洋進出にこだわるのは、潜水艦を隠せる深い領海が欲しいからです。なぜならば、核兵器をそこに積み、隠しておきたいからです。これは、たしか、ヒゲの隊長こと佐藤正久さんの本でも書かれていました。話は逸れますが、ヒゲの隊長は、陸上自衛隊の福知山駐屯地で連隊長をされたあと、イラクに赴任し、参議院になり、外務副大臣になられた方で、外交安保のプロです。縁あって、僕も、本や講演会はもちろんのこと、その他の交流を通じて、とても多くのことを教えていただきました。隊長がよく出す地図に「中国目線で、海洋進出しようと思ったら、どう見えるか」という地図があります。その地図を見ると、台湾、尖閣どころか、沖縄が邪魔です。隊長の本でも、たしか、「中国に沖縄がとられてもおかしくない」と書かれていました。そして、本書でも、同様のことが書かれていました。今年は沖縄本土返還50年の記念すべき年ですが、もっと沖縄問題を真剣に取り組まないとけないと思うようになりました。
沖縄問題についていうと、「沖縄の負担軽減」と「日米安保強化」を両立することが重要だと思います。細かい話ですが、「沖縄の負担軽減」を先に言うのが重要です。細かい配慮をして、言葉の選択に気をつけることで、言い方一つで、同じことを言っていても、人々の共感を得やすく、より望ましい結果を得られることは往々にしてあります。それがリーダーシップだと思います。
小泉純一郎政権のとき「日米同盟と国際協調が日本外交の基軸」と連呼していました。当時大学生だった僕は、「米国が国際協調に反したらどうするの?」と思っていましたが、たぶん総理にこれを質問しても、「米国は国際協調に反しない」という答えが返ってくるだけだったと思います。そして、いまから思うと、「日米同盟を先にいっている」と思います。
いま大人になると、やはり僕もそうだと思います。「日米同盟と国際協調」の順番なのだと思います。しかし本書では、世界最強の国、アメリカの問題についても指摘しています。その問題は大きく2つあると理解しました。
- 一番強い国が間違えたことをしたら、裁くことができない、という問題。
- 一番強い国は、他国にことを理解しようとしなくともやっていけてしまう。(だから、英語以外しゃべれない。)
しかし、だからこそ日米同盟は重要だと思いました。普段から交流し、対話し、間違えそうになったらちゃんと指摘できる、対等な日米関係を目指すべきだと思いました。そしてそれをするのは、外務省や政府の努力だけではなく、民間レベルでの交流も重要だと思います。今年たまたま、米日財団が主催する、日米リーダーシップ・プログラム(USJLP)に参加するのですが、こういう気持ちをもって、日米関係の交流を、一民間人として、推進したいと思います。
一方で、「国際協調」というと、これは例えばロシア問題にどう取り組むか、中国とどう付き合うか、という話になると思います。日本はこれから、日米を重視するか、日中を重視するのか、という質問に対する回答は明確で、当然答えは「日米」だと思います。一方で、中露を国際社会に上手に迎え、国際協調していかないといけないと思います。現実問題として、米国とは多くの価値観を共有できているが、中国とはできていないからです。それは、例えば、人権、民主主義、法の支配、自由経済主義、といった価値観です。
さて、とにかく、緊迫する国際情勢。岸田政権は、防衛力を5年以内に抜本的に強化する方針を掲げました。今朝の新聞の多くは、このニュースを「財源示さず」というサブタイトルとともに配信していました。僕は、地方創生に取り組めば、数兆円くらいはあっという間に捻出できると思っています。その一部が防衛予算増額に使われることで、日米同盟を基軸として、国際協調の実現に向かうことが出来ると思っています。
防衛の話に関連して、最近、クラウゼヴィッツの『戦争論(まんがで読破91)』を読んだのですが、戦争では、攻撃よりも防御のほうが圧倒的に簡単だ、と書かれていました。これは、防御側は、自分の領土を守るだけでよいが、攻撃側は、長距離移動して領土を奪わないといけないからです。考えてみたら当たり前なのですが、攻撃側のほうが、補給経路も長く、そこを潰されると、いっきに兵力を無力化されてしまったりするわけです。わかりやすい例として、ナポレオンのモスクワ遠征の失敗が取り上げられていました。日本は防衛のことだけを考えればいいので、クラウゼヴィッツの本をよんで、少し気が楽になりました。
ヒゲの隊長も講演で、防衛予算の話をしていました。「あと一日◯円、食費を自衛隊員に払えたら、△カロリー増やせる」(細かい数字は失念しました)という趣旨の話でした。僕はこの話を聴いたときに、直感的に、地方創生をがんばって、地方の痛みなく地方交付税を少し減らせば、これが簡単に実現できるのではないかと思いました。これは、人口7.6万人の地方都市、福知山市で約10年、中小企業の社長をやった僕の、素直な感想です。
東京から地方に25歳で移住して、39歳現在、東京に戻る予定はありません。僕はここでやるべきことがあると感じているから、戻らないのだと思います。もちろん、田舎ののんびりした暮らしそのものも好きです。本書を読んで、最近いろいろと考えていたことが整理・刺激されました。この本に出会えてよかっと思います。
本書は、ロシアがウクライナを侵略する前に執筆された本です。ベストセラーになっているので、増版もあると思うのですが、その際には、国連の機能不全問題についても説明があると、もっと勉強になると思いました。
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