『経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには』の読書感想

経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには (中公新書)

阪大の大竹文雄先生が,一般向けに書いた本.「経済学ではこうやって考えるんだよ」ということが,身近な例を使ってわかりやすく書いている.経済学の啓蒙書としてオススメできる.

経済学的な思考といってもいろいろあるが,本書では,以下の二点に焦点を当てている.

  1. 人はインセンティブに反応して行動する
  2. 相関関係と因果関係を区別する

1.について,例えば,プロゴルファーの賞金が高いと,プロゴルファーのスコアが良くなるという事実が計量分析の結果明らかになっている話を紹介している.一般に,「労働者は,賃金が高いと,努力の度合いが高くなるだろう」,ということが推測されるが,現実にデータがないので分析が困難.ところがゴルファーの場合だと,賞金(=賃金)と,スコア(=努力の度合い)というデータが入手可能なので,「人はインセンティブに反応して行動する(=賞金が高いとより努力する)」ということが実証分析できる.

この例はあんまり面白くないけど,もっと極端な例というと,「遺産相続税の節税政策が発表されると,その政策が施工された前後で,急に高齢者の死亡が増える」って話.子供にたくさん相続させようと,税が安くなるときまでがんばって寿命を延ばしている,ってこと.データを見ると,こういう事実が浮き彫りになるわけで,人間ってけっこう合理的なのねってことが分かる.

2.について,例えば「いい男は結婚している」という切羽詰った20代,30代女性の嘆きが正しいかどうか検討している.「結婚すると男はいい男になる」から,結果的に,「いい男ってみんな結婚してるよね」という印象をもつだけじゃないのか?という議論をしている.「いい男」の定義は難しいが,とりあえず,「収入の高い男」と定義してデータを分析すると,結果,「結婚すると,収入が高くなる」という因果関係があることが明らかになる(「収入が高いから結婚する」のではない,ってこと!).その解釈はいくつかある(例えば,結婚すると家族のためにがんばって働くから,とか,結婚している男は社会的に信頼ができるから,とか).しかし,「結婚する男は,収入が高くなる」のではなく,「結婚するような男は,女性にもモテ,会社でも評価できるような人間的魅力があり,だから収入も高くなる」のではないか?という疑問も残る.しかしこの疑問が間違っていることも,双子を使った分析で明らかになっていて,おもしろい.一卵性の双子のペア136組のデータで,ペア同士で比較すると,結婚してない場合より,してる場合のほうが,賃金が26%高くなるんだってさ.これは面白い.双子ならば,「人間的魅力」も同じだろう,という前提で分析してる.もちろん,双子といっても性格は違うわけだが,なかなか面白いね.

「いい男」と「結婚している男」の相関関係について,どちらの方向に因果関係があるのか,ちゃんと考えるのが,経済学的思考ということ.一般には,「いい男」→「結婚している男」という因果関係だが,データを分析すると,「結婚している男」→「いい男」という因果関係が明らかになったよってこと.

まぁ,けっこう身近な例をつかって,「経済学者ってこんな風に考えるんだよ」ということを楽しく書いてます.目次はこんな感じです.目次をみるだけで,けっこうそそられる.しょっぱなの「女性はなぜ、背の高い男性を好むのか?」という分析は,かなり説得的です.ちゃんと経済学的な理由があって,大人になってから無理やり慎重を伸ばしても,モテないよ,ってことも書いてあります.

プロローグ   お金がない人を助けるには   
Ⅰ    イイ男は結婚しているのか?   
        1 女性はなぜ、背の高い男性を好むのか?        
        2  美男美女は本当に得か?   
        3 太るアメリカ人、やせる日本女性   
        4 イイ男は結婚しているのか?     
        5  自然災害に備えるには?         
        6  人は節税のために長生きするか?  
 Ⅱ    賞金とプロゴルファーのやる気   
        1  プロ野球における戦力均衡                                     
        2 プロ野球監督の能力   
        3 大学教授を働かせるには?   
        4   オリンピックの国別メダル予測                     
        5   職務発明に宝くじ型報酬制度   
        6  賞金とプロゴルファーのやる気 
  Ⅲ    年金未納は若者の逆襲である   
        1   日本的雇用慣行は崩壊したのか             
        2   年功賃金は「ねずみ講」だったのか?   
        3 年功賃金と成果主義   
        4  年功賃金はなぜ好まれる?                            
        5   賃金カットか人員整理か?   
        6   失業がもたらす痛み   
Ⅳ    所得格差と再分配   
       個人の格差と世帯の格差          
        見かけの不平等と真の不平等   
        所得格差と「小さな政府」  
 エピローグ  所得が
不平等なのは不幸なのか   
        誰が所得の不平等を不幸と感じるのか                          
        所得の平等か機会の均等か    
        経済学的思考のセンス

コメント

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