今日、初めてこの教科書に目を通してみた。蓑谷先生のこれまでの研究の総決算という印象を受けた。時系列分析もパネル分析もカバー。大学院レベルで日本語で書かれたものは、これまでなかったので、その意味で貴重ですね。しかもいままで蓑谷先生の教科書で勉強してきた人は、一章からすんなり読めるはず(記号の使い方とかが一緒だから)。英語苦手だよって人で、バイブル的なものが必要な人は、買って損はないかと。
パラパラめくってみると、幅広く扱ってる一方で、詳しく書いてあることも分かった。1000ページになってしまうのも納得です。
最近のエコノメの主流のテキストだと、母集団と標本を、明確に区別してる。例えばEconometric Analysis of Cross Section and Panel Data(Wooldrige)は、そういう書き方をしている。それから確か、Econometrics(Hayashi)もそうだったはず。この点、本書は、その流れを汲んでいない。この点は、HaysahiとかWooldridgeとかの書き方のほうが分かりやすいかもしれん。大学院レベルだと、推定量はOLSも含めてぜんぶGMMの特殊ケースとして理解するのが手っ取り早いから。
「ぜんぶGMMとして理解しよう」というアプローチは、確かに勉強するとき分かりやすいので都合がよいが、どうもOLSやMLに対するリスペクトがない気もする。OLSなんてガウスが18世紀だったかに見つけたものだし、MLも20世紀初頭だったかにフィッシャーが整備した、歴史のある推定方法。対するGMMは1982年にLP Hansenが、すでにあったMMをGeneralizedしたってだけの、ある意味しょぼく、しかも若造の推定量(しかも、Amemiyaの1973年くらいの論文をちょっといじっただけだとも受け取れるし)。オイラー方程式から直交条件つくってGMMに持っていく一連の発想は、すげーアイディアだとは思うけど。
Econometric Analysis(Greene)は、HayashiやWooldridgeとかのアプローチはとってない。本書は、タイプ的にはGreeneに近いな。本書でも、GMMのチャプターで、OLSとかも特殊ケースとして理解できるよ、とは書いてあるにはあるけど。
繰り返すと、英語苦手な人で、バイブル的なものが必要な人は、買って損はないのでは。英語できるんだとしても、Wooldridge, Hayashiとはアプローチが違う。アプローチが似ているGreeneは章立てがあまり良くない気がするし。結局、日本人だったら本書が役立つかな~、という感じです。
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