【書評】『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』byクリステンセン

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『イノベーションのジレンマ』で有名なクリステンセン教授による2017年の本。『イノベーションのジレンマ』は、イノベーションに成功した企業がなぜ衰退するのかを明快に説明できていましたが、「どうやってイノベーションを起こすのか」については、説明できていませんでした。その答えが本書になります。

英語の原著タイトルは”Competing Against Luck: The Story of Innovation and Customer Choice”で、直訳すると「運任せにしない:イノベーションと消費者選択のストーリー」という感じになります。このタイトルには、「イノベーションを運任せにしないで、成功するべくして成功するべきだ」、というメッセージがこめられています。

そしてその「明快に説明できる理論」が「ジョブ理論」です。思い切って『ジョブ理論』を邦訳タイトルにしてしまったセンスには脱帽です。すごく読者に刺さるわかりやすい言葉です。

ジョブ理論とは、「消費者がある商品を購入するのは、なんらかの片付たいジョブ(job、仕事)を片付けるためだ」という理論です。さらにこの理論によると、「その商品をつかっても、ジョブが片付かないならば、その商品を解雇(fire)するのだ」ということになります。英語でいうと、”Hire and Fire”(雇用して解雇する)とゴロもよいので、ジョブ理論は大変わかりやすいです。いかにHire(雇用)してもらい、Fire(解雇)されないようにするかを考えよう、ということになります。まるでサラリーマンと一緒ですね。だから、とっても分かりやすいのです。

ジョブ理論の具体例としては、ミルクシェイク、ドリル、紙おむつの例が僕は分かりやすかったです。

まずミルクシェイク。ミルクシェイクはどんな人が買うのだろうか?20歳代の女性?30歳代の男性?収入はどれくらいの人が一番多く買うのだろうか?・・・というアプローチは、全部間違っていると著者は言います。これらは相関関係でしかなく、因果関係ではないと主張します。消費者がミルクシェイクで片付けたいジョブは、「車を運転して通勤する30分くらいの時間、気を紛らわせること」であり、この視点でみると、潜在的な競合は、コーヒー、ドーナッツなどになります。でも、コーヒーはすぐ飲みきってしまうし、ドーナッツは手が汚れるのでハンドルが不潔になります。ミルクシェイクがちょうどよいのです。できればなるべくドロドロしていて、いろいろなコーンフレークみたいなものがたくさんはいっていて、ストローで一気には飲みにくくて、時間がかかるやつが良いのです。想定顧客をセグメンテーションすることに意味はないということなります。

次にドリルの例。ドリルを買いたいのではなく、顧客は穴がほしいのです。「穴をあける」というジョブを最適に解決してくれるのがドリルなのです。

最後に紙おむつ。消費者は幼い子どもをもった両親です。彼らは、子供を上手に寝かしつけて、なるべく衛生的に一晩ぐっすり眠ってほしいのです。でも本当に片付けたいジョブは「夫婦の夜の生活を邪魔されない」ということだったりします。中国市場で、紙おむつのマーケティング広告で、「当社の紙おむつをつけると、いかに長く赤ちゃんが眠るか」を訴求したところ、大ヒットしたという事例が紹介されていました。

これだけ読むと、なんだそんなことか、と思うかもしれませんが、ビジネスで日々のことに追われていると、どうしても「そんなこと」を忘れて変な方向に行ってしまうのですよね。

クリステンセン氏は2冊目の著作である『イノベーションへの解──利益ある成長に向けて』に “Job to Be Done” という言葉を用い、顧客の属性や製品の特徴ではなく「顧客が片づけたい用事」つまり、「ジョブ」が商品を買うか買わないかの決定要因であると発表した。有名なミルクシェイクの逸話を用い、ドラッカーの「企業が売っていると考えているものを顧客が買っていることはまれである」、あるいはマーケティングの大家レビットの「人はドリルが欲しいのではない、穴が欲しいのだ」という言い古された警告がありながらも多くのビジネスが陥る罠への回避策を提案した。

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ここで「罠」とありますが具体的にどういう罠があって、どうやって回避すべきかも丁寧に記されています。一例を上げると、データの罠です。シェアだとか、顧客の年齢層だとか、そういうデータや、その分析レポートが経営幹部にはあがってきます。それをみて意思決定しても「ジョブ解決を最優先した意思決定にならない」という説明がなされます。ミルクシェイクの例でいうと、「20代の女性がたくさん買っている」みたいなデータばっかりあがってくるわけです。論理的に考えると、「20代の女性に徹底的にインタビューしよう。」と社長は指示するわけですが、もう変な方向にいってしまっているわけですよね。

ところで、本書を読んでいて、「ジョブ理論」は「デザイン思考」にそっくりだと思いました。著者自身も、それを認めています。消費者に徹底的に共感することの重要性を説いている点がそっくりです。

ここで僕は消費者に「インタビュー」という言葉を使わず、「共感」という言葉を使いました。なぜなら、消費者自身、どんな商品やサービスが欲しいのかよくわかっていないことがよくあるからです。ジョブ理論の言葉でいうと、「どんなジョブを解決したいのか、消費者自身が明確に言葉にできていないこともたくさんある」ということです。

ここに新しい事業展開のヒントがあります。多くの消費者は、けっこう「なんとなく」ある商品やサービスを購入しています。的確にジョブを遂行してくれるわけではないけれど、ほかに選択肢がないから、仕方無しにそれを買う、みたいなことがけっこうあります。というか、消費者自身が「どんなジョブを解決したいのか」よくわかっていないことがあると思います。なんとなく心の底にあって、うまく言葉にできないんです。

例えばイケア。「急に引っ越すことになった、一日で家具などをすべて買い揃えたい、必要最小限の支出で、子供がぐずっても安心してショッピングしたいし、託児所があれば安心だし、ご飯もぱぱっと食べたい」というジョブをhire(雇用)できるのは、イケアだけです。言われてみればごもっともなのですが、イケアが出現する前は、どの家具屋も、このジョブにこたえられていませんでした。どちらかというと、家具屋は、なんとなく行きにくいところだったかもしれません。店員さんは高いものばかりをすすめてくるし、納期もかかったりするし、子供がぐずったりふさげてベッドで寝転がると注意されるし(これは、僕自身が似たような経験をしたことがあります。そんな家具屋に、再度いくでしょうか?)。

でも、「急に引っ越すことになった、一日で家具などをすべて買い揃えたい、必要最小限の支出で、子供がぐずっても安心してショッピングしたいし、託児所があれば安心だし、ご飯もぱぱっと食べたい」というジョブを明快に説明した顧客インタビューなんかないのだと思います。消費者の側も、イケアが出現して初めて「そうそう!これこれ!」「急に引っ越すことになった、一日で家具などをすべて買い揃えたい、必要最小限の支出で、子供がぐずっても安心してショッピングしたいし、託児所があれば安心だし、ご飯もぱぱっと食べたいの!」と顧客満足アンケートに答えるのでしょう。

顧客も明確に説明できないことを汲み取って共感し、顧客が「仕方なしにほかの代替手段ですませていた」という悲しい状況に、的確にジョブを遂行してくれる商品やサービスを投入する。事業展開とは、なんて素晴らしいことなのでしょうか。僕もそういう事業展開をできるだけやりたいと思いました。

最後に。下記の本も合わせて読むと面白いです。

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