『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』

book

start upの起業家たちが、いかに「夢中になって仕事をしているか」を伺い知れる本です。そういえば僕も社長になった時には、「寝る以外は働く」状態でした。僕は起業家ではなく老舗中小企業の3代目社長なのですが、「夢中になっている働いている」という点では同じだなと思いました。夢中になっているので、気がついたら誰よりも事業内容に詳しくなるわけです。

これはもう完全に職業病で、毎日、買い物しているときも、運転しているときも、スマホをいじっているときも、ついつい自分の可愛い可愛い事業と自分の日常生活がどう関係しているのか、思索を巡らせてしまいます。だから、

多くの起業家にインタビューを行った。まず、全員の共通点として、 自らが戦う事業領域において、誰よりも詳しくなるまで情報収集をしていた

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というのも、当然だと思います。とはいえ、start upの起業家と老舗中小企業の3代目社長には、共通点ばかりではなく、相違点もあると感じました。この記事では、それぞれについて書いてみたいと思います。

start up起業家と老舗中小企業3代目の共通点

困っている人を助けるのがお商売の基本

本書ではしきりに、「誰のどんな課題を解決するのかが重要」であると繰り返し強調しています。これは、共感しました。ここで「誰の」はけっこう具体的に顔を思い浮かべられるほうが僕は良いと思います。彼らが、時間を節約するために1分あたりくらいまでなら払えるだろうか(経済学用語だと、限界支払用意)と考えることは、かなり重要です。なぜなら、その総和が市場規模だからです。そう考えると、市場規模は思ったより大きいかもしれないし、小さいかもしれません。市場規模を正確に把握するのは重要です。ドライブがうまくいったとき、スケールしたとき、どこまでイケるのかを、ちゃんとわかっておいたほうが良いからです。というわけで、

市場規模とは、顧客が「解決できる課題に払う金額」の総和

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と定義されているのですが、市場規模の推定も、僕もこんな感じでしていると思います。

また本書では、課題をペイン(痛み)と呼んだりもしていて、表現が面白かったです。ペイン(痛み)を和らげるという点で、経営者は皆、ドクターなのかもしれません。どんな言い方にせよ「困っている人を助けるのが、お商売の基本」だと思います。

後述しますが、どんな人が「ペイン」「困りごと」「課題」をたくさん抱えているかというと、それは圧倒的に、「Bクラス以下」の人材です。

スマホが出てきて情報がどんどん増えていく中で、人が本当に求めている情報を手に入れづらくなっているのではないかと感じたんです。情報リテラシーが高い人は、検索エンジンやソーシャルメディアを駆使して、欲しい情報を手に入れられると思うのですが、それが難しい人もいる。ここにペインがあるのではないか

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「情報リテラシが高くないような人」は、労働市場で言うと、「Aクラス人材」ではないわけですが、後述するように、そういう「Bクラス以下」の人材の困りごとを解決するのが、ビジネスの主たる存在理由だと僕は思います。だから、そんなAクラス未満の人にJOBを与え雇用する中小企業は、とっても重要だと思います。これは、後で書きます。

動機は不純でもよいのでは

動機はなんでも良いのでは、というところも、けっこう響きました。「Mission(この会社の使命)→Value(私達の価値観、行動基準)」みたいなのもすごく良いのですけど、けっこう不純な動機でも良いのないでしょうか。

Facebookがどういう動機で当初作られたかご存知でしょうか?いまでこそ、「bring the world closer together(世界のつながりをより密にする)」とか高尚なことを言っていますが、当初は、ハーバード大学の女子学生の容姿を判定するサイトでした。

社長の仕事は雑用

  多くの起業家 が「社長の仕事は雑用です」と言う。

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中小企業だと、業務分掌範囲が不明確なことが多く、社長がぜんぶやる、みたいなことがよくありました。でもそれって結局素晴らしい経験でした。

最終的に、社長が能力の有無の関係無しに手を動かさなくてはならない。財務、経理、人事、労務、法務、総務、庶務などのすべてに、それらの設計と運用がまだ複雑ではないこの時期に関わることは、経営者としての成長にもつながる。

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色々と雑用を頑張ると、幅広く知識を得て、「暗黙知を形成(ベストプラクティス構築)→形式知化(標準化)→他者(社員)へ渡す」というルーティンをたくさんやると、とっても勉強になるわけです。自分が得意ではない分野をすばやく勉強し、それなりにエキスパートっぽくなり、業務標準化して他の社員に(雇って教育して)渡す、というコツもつかめますから。

理念、ミッションの大切さ

これは、スタートアップ、中小企業に関わらず重要だと思います。

「僕はこれを『明るい宗教』と呼んでいます。『朝、全員で社訓を唱和します』みたいな、強制感がある形だと多分みんな言わないんですよ。だから会議室をバリューの名前にしちゃって、『会議、どこであるの?』『Bold、Bold』などのように、自然に言葉が刷り込まれていく仕掛けをたくさん作った。やはり、宗教には目で見て、口に出すみたいなプロセスが重要なので、これを強制力がない形で作っていく感じでした」

Kindleの位置No.1660-1664

ニンバリでは朝礼で経営理念を唱和しています。これを読んで、ちょっと工夫しようかなと思いました。

うまくいっている会社は、たいてい「明るい宗教」という感じはします。体育会系というか、value(価値観、行動基準、判断基準)が明確にシェアされているので。

反脆弱性が必要

まずは反脆弱性(はんぜいじゃくせい)について説明しないといけませんね。これは、タレブ(『まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか』とかで有名)の本のタイトルで、反脆い(はんもろい)、antifragile(アンチ・フラジャイル)とも呼ばれます。

「反脆いというコンセプトは、たとえば ワクチンのように、毒を入れることによって、 逆により強くなる、というような考え方です。

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やっぱり予期せぬ衝撃って、事業展開する上ではどうしても起こるのですが、それを、どう受けとめて、プラスにするかは大事だと僕も思います。死にそうなほどのダメージから回復すると強くなるサイヤ人とか、相手の攻撃を逆利用して自分のパワーにしてしまうボクシングのカウンターとか、そういう感じでしょうか。コロナがまさに良い例で、antifragileな組織は、これもバネにしちゃいます。というか、ノーダメージで順風満帆に計画通り物事がいくはずがないので、それなら、傷つくことに対する耐性(反脆さ)を持ったほうがよいですよね、ということだと思います。

反脆弱性が重要というのは、start upだろうと老舗企業だろうと、関係ないと思います。

組織マネジメントの重要性

ドラッカーはマネジメントを『組織を率いて成果を出す』ことだと言っている

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僕はマネジメントのことを「結果にコミットする仕組みづくり」とも呼んだりするのですが、ドラッカーの定義に立ち戻ることができて、よかったです。これも、start upだろうと老舗企業だろうと、関係なく重要だと思います。

ここをちゃんとやらないと、中小企業にすらなれません。個人商店とか個人事業主にしかなれません。もちろん、そういうひとたちもこの世の中には必要です。

妄想の重要性

アイディアは、検証するまでは単なる「主観」だ。「きっとみんなはここを不便に感じているに違いない」という気づきは、自分自身の主観から生まれる。しかし、自分の考えた仮説に対する思い込みが強すぎて、周囲の人が客観的に見れば「妄想」になってしまっているケースは多々ある。

Kindleの位置No.2589-2591

でも、妄想も重要ですよね?クレイジーだと言われてからが本当の勝負では、とも思います。

若い起業家からは「自分のアイディアは唯一無二のまったく新しいもので、競合は世界に存在しません」といったプレゼンをよく聞く。だが、それは単に市場調査を怠っているだけ

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stand on the shoulders of giants(巨人の肩に立つ)という言葉がある通りで、イノベーションのほとんどは、既存のナニカの再結合しでしかないという話ですね。

第一章でも触れたが、完全に新しいアイディアというものは存在しない。あなたのアイディアにニーズがあるなら、人々は不便を感じつつも代替手段を用いて生活をしている。オンラインだけでなく、オフラインまで視野を広げユーザーの行動を観察すれば、必ずベンチマーク企業は見つかる。

Kindleの位置No.2699-2702

「ほかに選択肢がないから、しかたなく、こういう方法(サービス)で、課題を解決しているんだよ」という状態は、なんてかわいそうな状態なんでしょうか。お商売の基本は、困っている人を助けること、と既に言った通りです。

まず、しぶしぶ使用している代替手段について徹底的にリサーチし、それを改善するにはどうしたらいいか具体的に考える、というのは、スタートアップも中小企業も同じでしょう。そして、一生懸命やっていると、人は集まってきて、いいチームもできるし、口コミしてくださるお客様も自然と現れるものだと思います。

start up起業家と老舗中小企業3代目の相違点

共通点ばかりではなく、相違点も感じました。

チームの作り方

起業家だろうと3代目社長だろうと、自分のチームをつくらないといけません。事業マネジメントと組織マネジメントは同じくらい大事なのですが、どうやって人を採用するかについては、起業家と3代目社長では違うと感じました。

Appleの創業者のスティーブ・ジョブズの残した有名な言葉に「 A クラスの人材は A クラスの人材を連れてきて、 B クラスは C クラスを、 C クラスは D クラスを連れてくる」というものがある。

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Aクラスを連れてくるには、まず自分がAクラスである必要がありますね。Bクラスの人が起業すると、Cクラス以下しかやってこないので、中小企業で終わってしまいます。

ラクスルの松本は第二章でも紹介したようにエンジェル投資家の「君は中小企業を作りたいのか?」という一言で、自分の目線の低さに気づき・・・

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全員がBクラス起業家だと、中小企業しかできません。Aクラスの素質がある人材は、Aクラス起業をするべきです。この世にAクラス起業家は絶対に必要です。

でも、世の中には、Bクラス以下が中心の、中小企業も必要なんですね。理由その1。社会にはむしろ、Cクラス、Dクラス、Eクラス・・・人材の方が多いので、彼らにジョブ(job,職務)を与えるのは、社会にとって非常に重要だからです。理由その2。Aクラス起業家がつくるビジネスの主たる顧客の大半は、Bクラス以下の人だからです。

現実を見ると、「老舗中小企業の3代目社長」は、Aクラスではないことが多いでしょう。無理にAクラス人材の雇用に固執せず、Bクラス未満の人材にいきがいとなるJOBを与えてハッピーにすることを考えがほうがよいと思いました。

これはイケるという感覚

ただし、起業家の誰もが、最後のアイディアにたどり着いたときには「今までにない感覚。これはイケると思った」と口を揃えて言う。まさに電流が走るような感覚

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そんな感覚、流れたことない僕は結局マネージャーでしかなく、起業家ではないということでしょうか。やっぱりゼロイチをやらないと、電流は走らないのでしょうか。「第2創業」とか「社内ベンチャー」とか言ったりしますけれど、電流なんて走らないです。興奮はしますし、わくわくはしますけれど。

横文字が多い

起業家は、とにかくローマ字(「参加」ではなく「ジョイン」)とか、アルファベット3文字の略称(CPA;Cost Per Acquisition)とかを多用するようでした。僕は割と平易な日本語を使うように普段心がけているので、ちょっと読んでいて疲れました。

最後に

スタートアップ起業家と、老舗中小企業の三代目社長の、共通点と相違点という視点から書評を書いてみました。

最後にふと思ったこと。そう言えば、彼らの家族観はどうなのだろうか。僕は現在37歳で、同級生が大企業の役員になったり、子供が大きくなってきて教育のことを考えたりする年なのですが。月並みな質問ですが、「仕事の成功の裏で、家族は犠牲になっていませんか?」という質問をしたくなりました。

僕よりあとに生まれた人が、どれだけ起業して新しい事業や会社をつくるかによって、僕の老後も随分変わる気がするので、若い人にはどんどん起業してもらいたいです。もちろん、僕もがんばりますが。

関連のおすすめ本

『起業のファイナンス増補改訂版』

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