『「管理会計の基本」がすべてわかる本』の読書感想

 うーん、これは唸るほどに良書ですね。目からウロコが落ちる思いで読み進めました。言われてみれば全部当たり前なのだけど、当たり前を理解するのが一番難しい。とりあえず、アマゾンより目次を引用。

第1章 管理会計とは何か―マネジメントに役立ってこそ
第2章 意思決定―知らないうちに過ちを犯している
第3章 CVP分析―最初から利益が出るほど甘くない
第4章 固変分解―実はそんなに簡単ではない
第5章 投資の評価―複数年に及ぶ効果をどう評価するのか
第6章 コスト・マネジメント―重要性が増す間接費の管理
第7章 業績評価―管理会計をカタチにする
第8章 バランスト・スコアカード―表面的には業績評価手法、その実体は戦略必達ツール

 

 

本書を読んで一番良かったと思ったのは、損益分岐点と操業停止点の間にいるときの経営判断について、頭がすっきり整理されたことですね。僕としてはちゃんと理解していたつもりだけれど、本書を読んで改めて頭が整理されたという感じです。

あらゆる案件について、それを受注すべきかどうかは、すべからく、限界利益がプラスかどうかで決まります。プラスならば固定費の回収に貢献するので、限界利益は貢献利益とも言われますね。原価割れしていたとしても、限界利益がプラスならば、固定費回収に貢献するんで、その案件は受注すべきということになります。ただし、これは原価割れしていますから、営業利益は赤字になります。「損益は赤字だけれど、案件は受注して操業は続けるべき」という状況です。つまり「損益分岐点と操業停止点の間にいる」という状況です。経済学部を出たひとなら、ミクロ経済学の、あのグラフが頭に思い浮かぶはずです。
それでは、貢献利益がプラスの案件をやりまくった結果、t期の決算時に営業赤字になってしまったとしましょう。原価割れしている案件もこなしているので、そういうことは十分起こりえます。そして運の悪いことに、t+1期も、やっぱり経営環境が悪かったりして、限界利益はプラスだけれど原価割れの案件しか見えなかったとします。この場合、どうすべきでしょうか。
fixed costは長期においてはfixされていないので、実は変動費用です。というか、その気になれば経営の最高責任者にとっては何もfixされていないのだということを、ちゃんと理解する必要があるということです。そうすると次の質問は、どれくらいのスパンが長期なの、ということになりますが、それを決めるのがまさしく経営者の仕事でしょう(注1)。もしくは、fixed costはその気になれば変動費用なんだという自覚を持つことが、経営者の責任でしょう。どっかでガツンと経営判断しないと潰れちゃいますからね。
その経営判断は、その企業の財務内容に大きく依存するでしょう。いくら大赤字を垂れ流し手も屁でもないほどに潤沢なキャッシュを持っていれば、長くこと持ち堪えられるでしょう。逆に、ちょっとした赤字でもすぐにやばくなる場合だってあるでしょう。
結局、「t+1期にどうすべきか」に対する答えは、「財務内容と経営思想に依存する」ということでしょうね。”it depends”って、僕の嫌いな表現ですが、それが正解なのだからしょうがない。だからこそ、はっきり「具体的にはどういう財務内容になったらどうするか」「どういう経営思想で経営しているか」を明確にすることは必要だと思うわけですが、ほとんどの場合、ぼんやり頭で考えているだけで、明確にはなっていないと思います。
と、そんなことを本書のお陰ではっきりと整理することが出来ました。

 

誤った知識、認識に基づく判断は全部間違うわけだけど、けっこう世の中間違いだらけの経営判断がくだされてるのだろうな、と本書を読んで思いました。僕は気をつけよう。そのための努力を惜しまないようにしよう。

 

 

(注1)そうか、僕が経済学部にいた時「長期ってどれくらい?(how long is long?)」って質問に対して、「それは本質じゃない」みたいな回答をした某教授がいたけれど、正解は「経済政策の意思決定者が決めること」ということになるのか!今ころわかったぞ。せめて”it depends”って回答してくれたらよかったのに!

 

 

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