publish or perish

アカデミックな世界では、”publish or perish”という言葉がある。「研究業績を出せ、さもなければ消えよ」という意味で、大学教授が晒されているプレッシャーについて表現している。大学教授の仕事は、1)研究、2)教育、の二つであるので、研究しない教授は、仕事の半分はさぼっている給料ドロボーになってしまう。だから、そんな人は”perishしてね(消えてね)”、というのは、当然と言える。

さて、ここで研究業績とは何のことを指すのだろう?それは、学術専門誌に投稿し、査読に合格し、そこに載ったことを言う。学術専門誌と一口にいってもたくさんある。載った学術専門誌のレベルが高ければ高いほど、研究業績も高くなる。また、載せた論文がたくさんreferされればされるほど、研究業績も高くなる。なぜならば、たくさんの人に読まれ、他の多くの研究を触発したことを意味し、学術的な価値が高いからだ。ここで、世界中の研究者に読んでもらうことが重要になるので、論文は英語で書かないと話にならない。日本語で論文を書く必要があるのは、文科省の助成金目当ての時くらいのものだろう。

これ以外のほとんどは研究業績と言うにふさわしくない。例えばworking paper, discussion paperと呼ばれる論文を書くのは、研究業績にはカウントされない。だって、査読がないのだから、いくらでも書けてしまう。さらに、査読がないのだから、誤りがあるかもしれない。working paper, discussion paperを書く利点は、印刷費用などを大学側でもってくれるということと、論文をパクられるリスクを減らせる、ということである。

blogを書くことも、研究業績には入らない。やはり査読が無いのだから、間違っている可能性もある。blogの場合、性質が悪いのは、間違ったことを書いて、専門知識がない素人を扇動してまうという負の面があること(blog主に悪意があろうがなかろうが)。本当に研究能力があるのならば、敷居の高い学術専門誌に載せて、それを証明すればいい。そうしないとすれば、能力がないからだろう。しかし十分に高い研究業績を出した人が書くblogならば、ある程度の信頼を持って読むことが出来る。それは例えばmankiwとか。でも、mankiw blogにも査読がないわけだから、間違うことはあり得る。

では本は?これは、本にもよるが、あんまり研究業績にカウントするべきではないかもしれない。例えば、HayashiのEconomcetricsくらいのベストセラーになると、十分研究業績としてカウントすべきだろうけど、Hayashiはそもそも十分にたくさん、海外の学術専門誌に載せている。

英語の学術専門誌が査読があるからといっても、間違うことはあり得る。でも、査読が無いworking paper, discussion paper, blogなどだと、間違いが含まれている確率はもっと高いのだから、反論にはならない。

現状のシステム(英語の学術専門誌に投稿し、査読し、合格なら載る、というシステム)にも悪い面がある。一つは、投稿してから載るまでが1年2年は当たり前で、タイムラグが長すぎる、ということ。査読や編集作業に時間がかかるのだ。二つ目に、査読の合否が、レフェリーの主観に大きく依存してしまう、という点。だけど、査読無しで間違いだらけの低質研究がばらまかれるリスクを考慮したら、仕方がないと思う。レフェリーを100人とかにすれば少しは客観的になるかもしれないが、そんなことは実行不可能だし。

最近はwebsiteに論文をuploadするだけで世界中の人に公開できるようになった。また、blogだって英語で書けば世界中の人に読んでもらえる。こっちのほうがタイムラグもないし、より良いじゃないか、今までのやり方はダメだ、という意見もあるに違いない。

だけど、いま我々が手にしている教科書を見てみる。すると、英語の査読つき学術専門誌に載っている研究業績をreferしまくっているのが分かる。それらをベースに、教科書が作られている。「あなたが教科書で学ぶその知識は、どこから来ているの?」と言いたい。それは現状のシステムが積み上げてきた研究業績なのだ。

やり方を変えたいのならば、より良いやり方を提案するべきだ。「より良い」とは、良い研究成果がもっとバンバン出るかどうか、で判断するべきだ。blogや、discussion paper, working paperをwebsiteで公開するだけ、というやり方では、低質な研究が世にばらまかれるだけだと思う。著者の意図がどうかは別にして、専門知識の無い一般大衆を扇動しかねない。

結局、blogや、discussion paper, working paperをwebsiteで公開するだけ、というやり方は、今までのやり方よりいい方法とはいえないと思う。自分のwebsiteで論文を載せておいて、かつ同時に査読つき学術専門雑誌に投稿し、査読の合格を待つ、というスタイルが一番いいと思う。なかなか合格がでなければ、いつまでたってもdiscussion paperのままでwebsiteに晒され続けるだけで、それはそれで「この論文は値打ちが低いです」というシグナルを効果的に発することになると思う。

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