『戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する』の読書感想

世界の梶井厚志が一般向けに、ゲーム理論について説明してくれている。久しぶりに経済学者の書いた本を読んだ気がする。

前半(第一部)はまるで(学部レベルの)ゲーム理論の講義を受けているみたいな感じだった。ゲーム理論をまったく知らない人が電車の中などで気軽に読み進められる感じではないのでは。後半(第二部)はもうちょっとすらすら読める内容だった。現実を分析する応用例がたくさん載っており、一般の方はこちらのほうが楽しめるのでは。

本書を読んで、ゲーム理論について前から自分が感じていることを再確認した。簡単に言えば、「世の中の人は、ゲーム理論が想定するほど頭がよくない」ということ。例えばp144では、女性が男性を褒めるのには戦略的行動なのに、このことを戦略的に考えることができる男性が多くはない、というような話をしたうえで、

なぜ女性がそんなことを言うのかを戦略的に考えることのできる男性がもう少し多ければ、世の中はずっと違ったものになっていたはずである。

と書いている。ゲーム理論は「そのずっと違ったもにになっていたはず」の状況を分析しているのであるから、現実を分析できないことの告白にしか聞こえなかった。あるいは、p188では、2002年のワールドカップでチケットが大量に売れ残ったことについても、

チケット売れ残りで話題になったサッカーのワールドカップの試合入場券も、関係者に戦略的思考が少しでもあれば価格をしだいに下げながら販売されていたであろう。

と書いているが、男女関係やチケット販売だけではなく、ほかの様々なケースでも、それほど私たちは戦略的思考が出来ているとは言いがたいと思う。そもそもゲーム理論が想定するほど人間は戦略的思考レベルが高くはないということである。プレーヤーは戦略的思考が出来ると仮定して分析しているわけだから、ゲーム理論では現実を分析できないケースのほうが圧倒的に多いと思う。

けっきょく頭の体操でしかないのかな、という印象を持ってしまった。理論を現実に近づけるのではなく、現実を理論に近づけるべきだ、というあきれた発想はさずがにゲーム理論家の頭にはないと思うが、現状では理論を現実に近づけるという方向に行くよりは、どうやったらもっと面白い知的体操ができるか、ということをばかり考えているような印象を受ける。まぁ、実際に頭の体操って面白いから気持ちは分かるんだけどね。特にゲーム理論やってる人って、経済学者の中でも頭の回転が速い人がやっているから、なおさら頭をもっと体操したくなるんだろうな。

けっこうネガティブなことを書いてしまったが、本書は一流の経済学者が書いた良書であることは間違いない。「経済学ではこう考える」ということが分かるので、経済学の啓蒙書としてお奨めできる。

(参考)
経済学の啓蒙書としては、下記もお奨めです。こっちは現実のデータをちゃんと分析(計量経済分析)するとこうなってるよ、ということを書いています。
『経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには』

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