休日明けは株価は動きやすい?

株価などの金融資産価格の変動を説明するとき,経済学者はある種の情報を考える.ある情報があったとする.この情報を使って,株で大儲けすることが可能だとしよう.そんな情報はあるだろうか?もしそんな情報があるとすれば,その情報を使って,とっくに他の誰かが大儲けしているはずである.しかし現実に誰もまだこの情報をつかって大儲けしていないということは,この情報を使って株で大儲けできないことを示しているのだ,と経済学者は考える.
この経済学者の考え方を巡って,有名なジョークがある.

道端に1万円札が落ちていた.ある学生がそれを拾おうとすると,経済学の教授は言った.『やめたまえ,もしそれが本物ならば,とっくに誰かが拾っているはずだ.それは偽者だよ』.

経済学者の考え方が正しいとすれば,必死に世の中のいろいろな情報をつかってファンダメンタル分析なりテクニカル分析なりを行っている証券アナリストと呼ばれる金融機関のバックオフィスで働く頭脳を否定することになる.だから,これは金融実務家が経済学者を笑うときによく言われるジョークらしい.
現実に,そんな情報がそこらへんに落ちているのだろうか?この問題を巡って,経済学者たちは大量に論文を書いてきた.しかし結論は出ないまま,みんな飽きちゃった,という感じ.学者も人間なので,新しい面白い研究テーマが出てくると,古い研究テーマの結論は出さないまま,そちらへ飛びつくものだ.
さて,僕の考えを書くと,「そんな情報はほとんどない.でも,たまに落ちている」という感じか.どれくらいの頻度でそんな情報は落ちているのだろう?きっと,金融実務家が思うよりははるかにレアで,学者が思うよりははるかにたくさん落ちている,というのが僕の考え方.
カンタンな話だ.道端に1万円はまず間違いなく落ちていないが,1円玉,5円玉はよく落ちている.10円玉もよく見かける.50円玉はどうだろう?100円玉は?500円玉ともなると,落ちていることはほとんどない.
10円玉を拾うコスト(=株の場合,売買コスト)まで考えると,もうほっとんどそんなおいしい話は落ちていない,というのが現実だと思う.
10円玉を少し拾ったって小銭を稼ぐ程度だが,塵も積もれば山となる,ということで,大量に拾いまくって大儲けしたのがLTCMだったと僕は考えている.ここら辺のことは,過去のエントリーでも書いた.
そんな情報は落ちていないのが現実,ということになる.そういう市場のことをよく,「市場はあらゆる情報を織り込み済み」とか言う.それならば,情報量が多ければ,株価変動も多いはずだ.そして休日を挟んだほうが溜まる情報は,平日よりも多いはずだから,休日明けのほうが,株価変動は大きいのではないだろか?また,休日を挟めば,その間に得られた情報は月曜日の朝まで,株価に反映されないから,月曜の朝の最初の数秒,市場にゆがみが訪れて,儲けることが出来るのではないだろうか?休日に得たある情報があって,その情報を使えば株で儲けられるのだが,市場は開いていないから,月曜の朝をみんなが待っている.獲物を静かに狙うサバンナの猛獣のようなたくさんの投資家たちが,日曜の夜に息を潜めているのが想像できる.
現実には,月曜の朝を狙ったとしても簡単には儲けられないだろう.同じことを考えている人がたくさんいるわけだから,あっという間に株価はその「ある情報」を織り込んでしまうだろう.結局,一人当たりの儲けはたいしたことはない,という状況になってしまうだろう.利ざやは常に有限で,こういう獲物を狙う猛獣の数はたくさんいるから,一人当たりの儲けは,どうがんばってもたいしたことなくなってしまう.
さて,長々と書いたが,休日明けの株価変動は,平日に比べて,大きいのだろうか?休日が株価変動(ボラティリティ)に与える影響を研究した論文はけっこうある.あまり詳しくは知らないけど,本当にこういう研究をしたければ,ティックデータ(秒単位の株価データ)を使うべきなのだろう.日次データ「ごとき」でその特性をあらわにしてしまうほど,株式市場はヤワはないのでは,と思っている.
今年になってからの,日経平均の日次終値のグラフを描いておこう.休日のところで,折れ線グラフ途切れている.
これを目視する限り,休日明けには株価変動が大きい,とかそんなことは言え無さそうじゃない?「日次データごときで俺の分析しようなんて甘いんだよ,学者先生!」という株式市場の声が聞こえそうだ.
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