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『なぜローカル経済から日本は甦るのか (PHP新書)』の読書感想

2014年出版の本だけれど、もっと早く読むべきだった。著者は華麗な経歴の冨山和彦さん。

冒頭のこのフレーズで、著者が言おうとしていることがだいたい分かる。

しかし、急激な少子高齢化に起因する人口減少は、生産労働人口の減少が先行する一方で、総需要は二十年近いギャップ(平均寿命と退職年齢との差分)で後追い的に減少する。製造業のような「モノ」の市場では、海外でも生産できるが、「コト」(運ぶこと、介護すること、便利であること、泊まること……)を提供しているサービス産業の大半は供給者が顧客の近くにいなければならず、しかも労働集約的である。

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要するに、平均的に65歳で仕事から退職し、85歳ほどまでは平均的には生きるのだから、その20年のギャップの分だけ、需要だけはあるのに、労働力(供給、生産力)は低下する一方、ということ。供給不足になっても、tradable goods(貿易材)ならば生産拠点を海外に移転すればいいだけの話だけれど、tradable goods以外だとそうは行かないのだから。例えば、スーパーとかバス会社とか病院とかの、地域密着のサービス型ビジネスは、海外移転するわけにはいかない。

退職年齢と平均寿命の20年のギャップに起因する人手不足問題が起こっているのは、現実を観察すると、tradable goods以外を扱っている、地域密着のサービス型ビジネスである。

一方、tradable goodsを扱っている企業は、人手不足なんか起こらない。グローバルに生産拠点(供給地)を最適化しながら探し続けるだけだから。

本書では、tradable goods以外を扱っている、地域密着のサービス型ビジネスのことを「L(LOCAL)企業」と呼び、グローバルに生産拠点(供給地)を最適化できるtradable goodsを扱っている企業のことを「G(GLOABAL)企業」と読んでいる。

一般的にははよく「大企業VS中小企業」という軸で考えることが多いけれど、著者はこの二項対立はもうナンセンスだと説いている。そうではなく「G(GLOABAL)企業VSL(LOCAL)企業」という軸で考えるべきだと。

考えてみれば、中小企業でも「G(GLOABAL)企業」はあるし、大企業でも「L(LOCAL)企業」はたくさんある。僕の思いつく例でマトリックスを書いてみた。

大企業 中小企業
G TOYOTA イシダ※
L すき家
和民
地元のスーパー
地元の飲食店
地元の文房具

※)グローバルニッチトップ企業100選 選定企業一覧byMETI

 

「大企業VS中小企業」の軸で考えてしまうと、どうしても「弱い中小企業を救済すべき」という発想になってしまう。低賃金でも一種のワークシェアリングみたいな発想で、失業率を低く抑えるために、中小企業の生存を助けるべきだ、という発想の政策になってしまう。これはもう時代遅れだと著者は言うし、僕もそう思う。

「GvsL」の軸で考えると、全然違った風景が見えてくるということだ。G企業は大企業だろうが中小企業だろうが、グローバルに真剣勝負をし、勝てば官軍負ければ賊軍ということでやむなし、という世界で戦っている。L企業は社会構造的に人手不足なのだから、ワークシェアリングという発想自体が不要で、むしろゾンビ企業には市場退出を促し、それなりの経営能力をもった地元の優良経営者のもとに雇用も集約していき、生産性を高めていくべきだ、と。

G企業は、比較優位がないと瞬時に淘汰されてしまう。そんな厳しいサバイバルに生き残らないといけないG企業をどう育てるべきか、というと、これまた著者のフレーズがわかりやすい。

先端的 な ベンチャー の 多く が、 最初 から 複数 の 国籍、 複数 の 大学 や 研究所 の 成果 や 人材 から 生まれ て いる。 今さら 純 国産 の メガ ベンチャー に こだわる のは 時代遅れ。 日本 生まれ の 技術 で、 形 だけ シリコンバレー で 創業 し、 さまざま な 国籍 の 人々 が バーチャル に そこ で 協業 し、 そこ に 日本 からも 多く の 投資 が 入っ て いる モデル で 構わ ない の だ。 サッカー で 言え ば、 国 別 の ワールドカップ では なく、 チャンピオンズ リーグ の 優勝 チーム を 日本 の リーグ から 出 そう という 発想 だ。

冨山 和彦. なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略 (PHP新書) (Kindle の位置No.1124-1126). . Kindle 版.

全部純ジャパニーズでやる必要なんて、そもそもないということ。むしろ大事なのは、どうやってG型人材を日本に惹きつけるのか、ということ。そのためには、G型人材の子供の教育インフラや、医療サービスを充実させることが重要だ、と。

『年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学』にもあったが、生産性の高いG人材をたくさん国内に呼び込めれば、L人材にもプラスの影響を及ぼすだろう。本書では、これを「GからLのトリクルダウン」と呼んでいる。(※)もともとトリクルダウンというと、トヨタが潤うと、その下請け中小企業も潤う、みたいな文脈で使われることが多い。

もちろん、

グローバル企業やそこで働いている高度人材が世界で巨額のお金を稼いでも、消費に回るのはごく一部である。どんな金持ちも、一日にコーラを一〇〇本は飲めないし、車を一〇〇台乗り回すことはできない。所得が増えるほど消費性向は下がるという、例の理論通りになってしまう。残りの金は結局海外に再投資されるか、株主に配当として分配される。

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と著者も書いているように、「GからLのトリクルダウン」だけではGDPは増えない。GDPでみたとき、G:Lの比率は、3:7だそうだ。Gを伸ばすのも大事だが、根本的にはLを伸ばさないとGDPは増えないということになる。

Lを伸ばすには、まずプレーヤーが多すぎると著者は考えているようだ。その理由は

理由1)政策的に延命されているだけのゾンビ企業がたくさんいるため

理由2)Lビジネスの特性として、潰れにくい。たとえば、駅北のスーパーの方が明らかにサービスがよくコストもリーズナブルだったとしても、駅南のスーパーの方が通勤動線に合致するので、「我慢してここで買い続ける」という行動を消費者はとったりする。だから、駅南のスーパーはいつまでたっても潰れない。要はLビジネスだと「tradable goodsじゃなく、モノの移動が簡単ではないので、ここで買うしかない、と我慢することになる」のである。

Lではプレーヤーが多すぎるので、生産性の低い企業をまずは市場から退出させるべきだ、と。退出が進むと寡占になるが、これをどう規律付すべきか、という問題が次に起こるが、それは難しいと著者も素直に言っている。「L企業の名門に対する規律付」は、確かに考えてみれば本当に難しい。著者は2つ書いている。

規律(1)だいたいこのタイプの企業だと、立派な経営者が去った後に経営が傾く。だから、立派な経営者が去った後、不適格な後継者が次ぐのを阻止すべく、金融機関などが直言すべきだ、という発想。

規律(2)労働市場からの規律ということで、寡占企業があぐらをかいていないか、労働基準監督署などにブラックな実態がないかをチェックしてもらう、という発想。これまでは中小企業はどこか甘い扱いだったけれど、バシバシやって、潰れたらしょうがない、潰れたって働き口はいくらでもあるさ、だって人手不足なんだもの、という発想。その通りだと思った。

 

規律(1)は非常に的確と思った。結局、寡占の先にあるLビジネスの幸福な姿を想像してみると、「そこそこ優秀でまじめな経営者が、地道な創意工夫と改善で生産性を高める努力をしている、その結果、従業員の待遇も改善していく」というイメージが思い上がる。

対するGを率いる経営者は、グローバルなスーパーエリート。

従業員はどういうイメージの人たちなんだろう、と考えながら読み進めていたら、ズバリこの説明が腑に落ちた。

「自己 変革 を し て 成長 する こと で、 世界 に 飛躍 し、 豊か な 未来 を つくる」

グローバル 経済 圏 の G モード 人材 にとって は、 これ は 健康的 な マインド セット だ。 しかし、 ローカル 経済 圏 の 多く の 人 にとって は おそらく ぴんと 来 ない。

たとえば、 バス の 運転手 に「 自己 変革」「 世界 に 飛躍」 と 言っ ても っぽい だけ だ。 そんな こと より、 毎日 の よう に 公共 交通機関 を 動かし、 地域 の 人 の 足 に なっ て いる こと に 誇り を 持つ こと が 重要 で ある。

冨山 和彦. なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略 (PHP新書) (Kindle の位置No.2288-2292). . Kindle 版.

 

L企業を率いる際は、従業員の地元愛、地元密着、地元最高、という感情はとっても大事で、どうやったらそういう感情が満たされるのか、経営者は真剣に考え無くてはならないと思った。

GとLは並列で、どっちが偉いとかはない、ということも著者は書いていた。Gの方が高学歴人材がサバイバルをガチでやり収入は圧倒的に高いが、Lの方が暖かさがあってそこそこの収入で幸福な人生を送れるのかもしれない。ニコラス・ケイジ主演の『天使がくれた時間』という映画でいうところの、ウォール街で成功した投資銀行の社長になるか、郊外でタイヤのセールスマンをやりながら地元密着で幸せに暮らすか、どっちがいいかなんて人それぞれ。

著者の提唱する”グローバルのパラドックス”という概念も面白かった。グローバル化が進めば進むほど、GDPに占めるLの比率が高まる、というパラドックス。これは多分日本のGDPの話だと思う。バングラデシュとかだと、逆にGの比率が高まると思う。G型企業の工場を誘致しにいくから。日本に話を限ると、Lの比率が高まるわけだから、確かにここをテコ入れしないと、GDPは増えないし、国際社会でのプレゼンスも低下する一方なんだろうなと思った。Gも大事だけど、Lも大事ということ。要するに、どっちも大事ということ。

たぶん東京生まれ東京育ちで地方での生活がまったくないままの人生だったら、こういうことは書けなかったと思う。地方の問題も理解して解決しないと、日本は成長していかないなと思った。