雪の荘の皿洗いマン

とある民宿の厨房のお話。大学生がアルバイトで何人も住み込みで働いていて、宿泊されているお客様の食事を作ったり、片付けをしないといけない状況。週末ともなるとその忙しさたるや、なかなか大変。

で、住み込み大学生たち(代替7~8人くらい)の利害は一致していて、いかに早く食事の片付けを終わらせ、夜は早く寝て、朝は早くゲレンデにいけるか、ということ。食事の後片付けにはいくつかのステップが。
ステップ1:お皿を食堂から厨房に運んでくる。
ステップ2:残飯をお皿から取り除く。
ステップ3:お皿を人が洗う
ステップ4:食器洗浄&乾燥機にかける(機械の仕事)
ステップ5:食器棚に戻す
で、この一連の流れを観察してみると・・・まずみんながステップ1に一斉に取り掛かる。それからステップ2。これもみんなが一斉に取り掛かる。で、ステップ3は、シンクが一個しかないので、一人しかできない。だからステップ3のところに大量のお皿がたまる。次のステップ4は機械のお仕事で、こなすスピードは圧倒的な安定感。ステップ3さえ終わってステップ4までいけば、ステップ4は正確な時間が読める。ステップ5を担当する人は割と余裕そう。
ステップ3でお皿を洗う人が一番きついことになる。だってシンクが一個しかないんだもん。このステップに、どんどんお皿がたまるたまるたまる。だからどんだけ他のステップで他の人や機械が頑張っても、ここが終わらないと全体も終わらない。というわけで、頑張れ皿洗い担当者、ということになる。要は、「ステップ3:皿洗い」という工程が早く終われば、早く眠れる。この厨房の「食事の後片付け能力」=「皿洗い担当者の皿洗い能力」ということなる。
で、この宿、一回の食事に一人10皿くらい使う。200人分なら、2000枚。けっこう体力勝負で、男がやったほうが早い、ってことになる。なんとなく、僕がこのステップをやる習慣がついてしまい、いつのまにやら皿洗いが異常に早くできるようになる。で、宿のおばちゃんにつけられたあだ名が「皿洗いマン」。というわけで、みんなが早く眠れるかどうかは、皿洗いマンの頑張り次第ということに。
この話では、処理能力の一番低い工程(ボトルネック)の能力=厨房の処理能力、ということになる。ほかのステップをいくら増強してもダメ。処理能力を広げようとおもったら、ボトルネックの処理能力を広げないとね、というお話。
で、じゃあ、すべての生産工程の生産能力をまったく同じにしたら理想的なのだろうか?というと、これも違う。例えば、どの工程でも等しく1分に20皿を処理できるようにしたとする。5分後に20皿が棚に戻っているだろうか?たぶん、戻ってない。
人間の作業は、どうしてもばらつきがある。1分に20皿のお皿を洗う能力があっても、19皿だったり、21皿だったりする。ばらつきがあったとしても、そうは言っても、10分後なら200皿こなしている確率はかなり高い。60分ともなれば1200皿こなせている確率はもっと高いだろうね(大数の法則)。でも最初の1分で19皿、次の2分で取り戻そうとがんばって21皿、と、こういうことは絶対に起こる。2分合計でみたら、40皿をこなせてる。このときどうなるか?
次のステップである食器洗浄&乾燥機は、機械だから、バラツキがほぼ0で、毎分きっちり20皿をこなす。21皿以上をこなす力は、この機械にははい。だから、前の工程から19皿しかこなければ、次の工程で機械は19皿しかこなせない。それは当然として、大事な点は、たとえ前の工程から21皿きても、次の工程で機械はやっぱり20皿しかこなせない、という点。
という理屈で、100分後に、2000皿のお皿は食器棚に全部戻っていません。これは、人がする作業にはムラがあるという現実があるため。
最初の方の工程ほど、後の方の工程よりも、少しだけ生産能力を高めておかないと、100分後の2000皿は終わらないよね、ということ。
それと、経済学で比較優位という最初に習うとすげーなと思う概念があるけど、ここでは絶対優位のお話になっているのも面白いな。とにかくお皿洗いをするのが一番早い人が、お皿洗いをするべき、ということ。この人が例え他のステップで素晴らしい才能を持っているとしても、皿洗いマンになるべし、ってこと。だって、ボトルネックの処理能力を少しでも広げることが大事なんだから。
そんだけ。

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