『なぜ世界は不況に陥ったのか 集中講義・金融危機と経済学』の読書感想

けっこうためになった。現時点で、日本語で書かれた、今回の金融危機に関する、一番よい本だと思う。

投資銀行などでは、運用に成功したら多額の報酬がもらえるけど、失敗して多額の損失を出してもクビになるだけなので(結局サラリーマンでしかないので)、結果的にリスクを過剰にとってしまっていた、という非対称性があった、とか。今回の危機で、資本主義は終わった、とかいう議論があるけど、それは浅はかすぎる、とか、経済学者=市場に任せれば全てうまくいく人たち、という批判があるけど、それって的外れ、とか。あと、30年前のマクロ経済学しか知らない人が、ケインズ的政策を言ったりしてる、とか。「資本主義終わった」「傲慢強欲ウォール街のせい」みたいな感情的本が大量出版されている中、こういう冷静な議論が出来ているのは、すばらしいと思う。

でも、マクロ経済学がいまどうなっているのか、普通の人は知らないでしょ。それって、ちゃんとした経済学者が啓蒙をちゃんとしなかったことに大きな原因があると思うから、むしろ被害者だと思うけど。日本の経済学者の怠慢だと思う。一方で「財政政策すると、45度線って理論があって乗数効果があるんだ」と言っていたり、また一方では「財政政策したって、クランディウングアウトして民間投資を相殺するから、効果はないんだ」って書いてある。いったいどっち、と専門家以外が混乱しても全然不思議じゃない。そういう僕自身も、そんなに財政政策の有効性とかをめぐる議論は、学識が高いわけじゃないけど。(でも、ちょっとそういう話も知ってる範囲で書こうかな。その話は長くなるんで、根気がないと書けないんだが。)

あと、p242で、

池尾 実は私自身は、林=プレスコットと少し違う見方をしています。

とか書いているが、自分の主張があるならば、論文として国際的舞台で主張したらどうでしょう、って思う。日本語で書いた本で主張したって、世界を相手に聞いてもらえないでしょう。特に、hayashi prescottみたいな有名論文を相手にするならば、トップジャーナルで主張しないと、誰も相手にしないのでは。幸運にも林先生は日本語が出来るけど、プレスコット先生は、池尾先生がこんなところで何か言っているなんて、永久に知らずじまい。それでは、活発な議論は出来ない。国内レベルではなく、世界レベルでちゃんと学問的業績を出してほしい。(時短&RBCで日本のlost decadeを説明できる、なんて、そんな単純な説明はさすがに無理があるだろう、という気持ちは分かるが。。。)せっかく超一流経済学者が(それも二人も)、日本経済に興味を持って研究しているわけだから、それと議論するために同じ土俵で勝負してもらいたい(hayashiは日本有数の経済学者、prescottは2003年ノーベル受賞)。

帯に『「世界標準」の経済学講義。』と書いてあるが、世界レベルで研究活動をしていない人がそんな風に言っても、普通に考えれば説得力はない。ただ、僕が本書を読んでみた結果、「現時点で、日本語で書かれた、今回の金融危機に関する、一番よい本」というのが素直な感想。さすがに、この二人がトンデモということは絶対に無いのだが、せっかく高い学識を持っているのだから、世界的な学問的業績もきっちり出して、実力を証明していただきたい。

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