『人間失格』の読書感想

太宰治が自殺直前に発表した作品.一応,大庭葉蔵という名前の主人公が書いた三つの手記という形式で構成されているが,内容が太宰自身の人生とかなり似ているところがあり,自叙伝なのでは,と勘ぐってしまう.おそらく自叙伝なのだろうが,真相はよくわからずじまい.なにせ発表後すぐ自殺してしまったのだから.

で,内容.「恥の多い生涯を送って来ました。」という文章がすべてを象徴している.大庭葉蔵の人生は恥だらけである.学校には行かず働きもせず,しかし国会議員の父のおかげで金には困らず,その金で女,酒,薬に溺れ,自殺未遂をやったり,妻が強姦されても助けずに逃げる,といった具合である.まさに,この人間は「人間失格」だな,というのが率直な感想である.それ以外には思うことは特にない.

僕はいまや25歳.10代の頃に読んだらもうちょっと違った感想を持ったかもしれない.10代の頃は,意味もなく人生に悩み,「死」という言葉に憧れをもったり,「自殺」が美しいものだと勝手に思ったするものだ.そんな多感な思春期の読者が本書を読んだら,きっと太宰に傾倒するのだろう.いい大人が読めば「いつまでも寝言ほざいてないで,まともに働いて生きなさい」と感じるだろう.

とはいえ,恥を承知でその心の内を赤裸々に告白することで,人間の本質をたくみに捉えた作品となっていることは否定できない.この告白が,大庭葉蔵という想像上の人物のものなのか,太宰のものなのかは置いておいて.思わずハッとする文がいくつも紛れ込んでいた.一例を挙げると,「けれども、自分は、父がそのお獅子を自分に買って与えたいのだという事に気がつき、父のその意向に迎合して、父の機嫌を直したいばかりに、深夜、客間に忍び込むという冒険を、敢えておかしたのでした。」(pp.17)

夏目漱石の『坊ちゃん』の方が文章が気持ちがいい.

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