『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』の読書感想

これは友達に薦められて読んだ本.アメリカで250万部売り上げたベストセラーのビジネス書ということだが,確かに面白かった.知的に面白いし,実践でも役立ちそう.

内容は,業績が悪化してる工場の所長が,試行錯誤しながら業績を改善していくというストーリー.小説に仕立てているので,分かりやすくさらっと読めてしまう.さて,タイトルの『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』であるが,本書では,「企業の目標は,お金を儲けること」と定義している.この当たり前の定義を確認するところから物語は始まる.主人公は,「企業の目標(ゴール)はお金を儲けることで,そのゴールに近づけるように全体最適化問題を解けなければならない」ということに気付く.それまでの主人公は,一部分のみをみて,部分最適化問題を解いていた.例えば,製造現場ではついつい「コスト削減」「生産効率の上昇」などを目標にしがちだが,本来の目標は,「お金を儲けること」なのである.だから,「一製品あたりの製造コスト」や「機械や労働の生産性」などといった部分的な指標をみてはいけない.ゴールに近づくために見るべき指標は,「スループット(販売を通じてお金を生み出す割合)」「在庫(販売しようとする者を購入するために投資したすべてのお金)」「作業経費(在庫をスループットに変えるために費やすお金)」の三つであると本書で出てくる.スループットを上昇させ,在庫と作業経費を低下させるようなマネジメントがやるべきことであると.

部分最適化問題の解と,全体最適化問題の解はずれることがあるので,前者を考えていると実は工場マネジメントは最適化されないよ,という具体的な例が出てくる.「何もせずに工場内で暇そうにしている作業員がいるのは悪いことか」という質問に対して,主人公は「もちろん悪いことだ」と述べる.しかし,実際にはかならずしもそうではないことがあきらかになっていく.主人公は次第に,生産過程の中で,一番生産性が低い生産過程(これを本書ではボトルネックと呼んでいる)のペースにあわせて,他の生産過程(これを本書では非ボトルネックと呼んでいる)のペースを落とすべきだということに気付く.そうではないと,非ボトルネックで作る部品は常に余剰在庫になり,在庫が増えることで管理コストが増えるからである.逆に,ボトルネックをフル稼働させなかった場合,それは工場全体の売り上げ(スループット)の減少に直結するという.ボトルネックの生産能力=工場全体の生産能力,だからである.

単純な話で,一列に隊を為してあるき,全員が目的地にたどり着くには,太った一番ペースの遅い隊員が目的地にたどり着く必要がある,ということ.早くたどり着く人もいるが,彼らは結局,この太った隊員の到着を待たなくてはいけない.結局,この待機コスト(=在庫コスト)の分だけ余分なお金がかかるので,早く歩ける隊員も,太った隊員にペースを合わせたほうが,全体での消費カロリー(=作業経費)は減るので,良いことだ,ということ.この例では太った隊員が,ボトルネック.

ボトルネックの前後での生産過程は,生産ペースをボトルネックにあわせる必要があるが,ボトルネックでの仕事がなくなることは絶対に避けなければならないので,ボトルネックのところで,「ボトルネックでの仕事待ち状態になってる部品」がある程度たまっていなくてはいけない.そのためには,非ボトルネックには,余剰生産能力が求められる.すべての生産過程が,「需要に見合ったピッタリの生産能力を持っている」ような,一見理想的なバランスのとれた工場は,実はとても非効率的である,という結論が導き出される.

本書で印象に残った概念として,「依存的現象」と「統計的変動」という二つがある.「依存的現象」とは,生産過程にはいじれない順番があるということ.「統計的変動」とは,例えば,仮に生産過程1,2,3の三つの工程からなる生産ラインがあるとする.それぞれの過程では,平均すれば一時間で100個の部品をあつかえるとしよう.3時間後に100個すべてが処理されているか,というと現実には違う,ということ.例えば,最初の1時間で生産過程1で95個しか作れなければ,生産過程2ではそもそも95個しか投入されない.この95という数字は,生産過程2で減ることはあっても増えることはない.仮に95個全部を生産過程2で扱えたとしても,生産過程3で同じことに直面する.生産過程が長ければ,この問題はより深刻になる.だから,生産過程1で,例えば最初の1時間で95個,次の1時間で105個,合計2時間で200個を扱って,「うちのところはこの2時間でやるべき仕事をこなした」といっても,最終ラインでは期待された時間(4時間後)で200個は完成しないということになる.つまり,生産ラインの最初の方は,最後の方よりも生産能力が高い必要がある,ということ.

本書は生産サイドの本だったので,今度は営業サイドの本でおもしろそうな本を見つけて読んでみたいと思います.それから,経理,マーケティング,ファイナンス・・・などなど,学びたいことはたくさん!

コメント

  1. 突然の御連絡、失礼いたします。
    (株)ブログウォッチャー編集部佐藤と申します。
    急な御案内で恐縮ですが、
    「ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か」http://www.sugi-shun.com/mt/2008/02/post-482.htmlの書評ブログ記事を株式会社リクルートエージェントの公式コミュニティサイト「BizRavel」に掲載させて頂きたく、御連絡差し上げています。
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    ブログ更新、投稿義務などブロガー様への御負担は一切ございません。
    この掲載が貴方殿のブログへの集客口として貢献できれば幸いだと考えております。
    詳細について、ご連絡させていただきたいので、2010年7月5日(月)までに
    お返事をいただけませんでしょうか。
    何卒、ご検討の程宜しくお願い致します。
    株式会社 ブログウォッチャー
    編集部 佐藤  bizravel@blogwatcher.co.jp

  2. […] 小説版よりはるかに短時間で読めて、エッセンスはちゃんと詰まっている。大変おもしろい。あらためて勉強になった。 […]

  3. […] ちなみに、『ザ・ゴール』とは全然関係ないみたいです。The art of […]

  4. […] 『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』の続編。「続編は、前作に比べてしょぼくなる」ってセオリーを破った。前作並み、あるいはそれ以上。ちょーおもしれー! […]

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