『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』の読書感想

Googleに暗記作業を,Excelなどに計算作業をアウトソースしまくっている現代人は必読の一冊だな.なんか問題があったら考えるより先にググってしまったり,ちょっとした計算をExcelなどにやらせたり,ってことを頻繁にやっている人は,この本を読んだら良いと思います.

著者の定義する「地頭力」を僕の言葉で述べると,「自分の持っている知識の範囲内で,論理的な道筋で,ある程度の精度で,すぐに結論を導く力」といったところか.この「地頭力」を鍛えるために,フェルミ推定が練習になるね,ということで,「日本に電信柱は何本ありますか?」みたいな例題が取り上げられていた.昔だったら,こんな問題できなかったけど,今は随分できるようになっていて,かなりの精度で答えをすぐに出すことが出来た.

著者は人間の能力を,1)暗記力,2)コミュニケーション能力,そして3)地頭力,の三つから構成されるとして,これからの時代は3)地頭力,が重要になる,と主張.同意.

「地頭力」がゼロだった大学1, 2年生くらいの時の自分に読ませたい.

AmazonやGoogleの存在によって,自分の読む本の範囲が狭まった気がする

ニートの19歳女の子を札幌『紀伊国屋』に連れてったら感動して泣かれた話

逆に本屋と言うのは、ほぼ全ての本が平等であり、どれを買うかは本人が調べ、考え、選び、そして購入に至ります。

本屋さんだって,「ポップ(『オススメ』・『ベストセラー○位』・『泣けます』とかってタグのこと)の有無」とか「陳列されている場所」などが違うので,すべての本が平等ではありえない.しかし,Amazonとなると不平等度がさらに高くなる.つまり「レビュー」や「この商品を買った人はこんな商品も買っています」とかの存在によって,プッシュされる本とそうでない本の格差が広がる.だから,平等である,とまでは言えないが,確かに本屋のほうが不平等度は低い.

だからこそ,AmazonやGoogleで本を探すのに比べて本屋さんの方が,「宝探し」のような感覚が強い.本屋さんにたまにいくと感じるワクワク感は,Amazonでは味わえない.シーンとした店内で立ち読みする快楽ってのがAmazonでは味わえないから.本屋だと誰に勧められるわけでもないのに,ふと手にとってパラパラめくった本が,いい本であったりするから.

AmazonやGoogleの存在によって,自分の読む本の範囲が狭まった気がする.「経済学,統計学,ファイナンス,経営学,データ解析,ロジカルシンキング関連で何かいい本ないかな?」というスタート地点からAmazonやGoogleで探すことが出来るので,自分の興味がピンポイントで満たされるようになった反面,自分があまり興味ないはずの分野の本を本屋さんでふと手にしてそれを気に入る,という経験をしなくなる.

ネットが進化してロングテール,nerd,少数派をつなげることが可能になった.その結果,マニアックで偏ったグループが形成される.しかし,そうして形成されるグループ間のコミュニケーションが薄くなっているような気がする.

Amazon,Google,信頼している書評サイトなどで気になった本をはてブしまくっているんだけど,それを見れば,僕の興味のある本がいかに偏っているかが分かりますw

積読積読積読!読みたい本はたくさんあるのに,全然消化できず・・・速読力が必要.dan kogaiが羨ましい.

ハーバードのサマーズ元学長の炎上発言に見る教訓

Larry Summersというスーパーマンみたいな人がいる.ウィキペディアのページを見れば,いかに彼がアンビリーバボーか分かりますw.

Summersはハーバードの学長をやっていた時にある問題発言をしてしまって,学長辞任に追い込まれた.その発言の趣旨は,「一流大学の研究者に女性が少ないのは,生まれつきの性差があるからではないか」といったものである.これが「女性蔑視発言」ということで猛烈な反発を食らったわけである.

しかし,彼の真意は女性蔑視ではないことは,彼の主張が書かれているハーバード学長のページを読めば明らか.彼が言っているのは,「数学的能力などのヒトの属性変数の標準偏差は,女性より男性のほうが大きいかもしれない」ということでしかない.標準偏差(分散)とは,バラツキことである.これは例えばこういうことを言っている.「すごくIQが高い水準には(女性に比べ)男性のほうが多いかもしれないが,その一方で,すごくIQが低い水準にも男性のほうが多いかもしれない.」こういう主張は,計量経済学によるデータ分析によって明らかになっている.確かに歴史に残るような天才は男性ばかりな気がするが,その一方で,知的障害者の方も男性に多いような気がする.つまりSummersの主張はこういうこと.「全米でTop 25の大学に入るようなレベルの物理学者というのは,極めて高い頭の良さが勝負で,このレベルに入る男性と女性の比率は,男性のほうがだいぶ大きくなって,だから一流の科学者には女性が少ないのかもしれない.」

バラツキの上位のほうにスポットライトをあてれば,確かに「Summersは女性蔑視発言をした」と言える.しかし,バラツキの下位のほうにスポットライトをあてれば,「Summersは男性蔑視発言をした」とも言えるのである.全体を正しく伝えるべきであって,一面のみを伝えるのでは恣意性を感じる.

ところが,Summersはかなり不遜な態度を普段からとる人物らしく,もともと反感を買いやすい人だったらしい.こういうことに加えて,マスコミの無知も重なって(よく勉強せずに,標準偏差の意味を調べずに偏った報道をしたということ),Summersの学長辞任という流れになった.

この件から得られる教訓は三つ.

1)普段から謙虚であれ.傲慢な人間のわずかな隙をみんな見逃さないから.
2)マスコミの報道は偏ってる.そういう前提で個はマスコミを利用するべき.
3)計量経済学は時にヤバイ結果を明らかにしてしまう.でも圧力に屈せずそのまま発表するべき.

日本の問題は地方から解決したほうが良い

東京と地方の格差って問題がよく議論されているけど,実は東京と世界の大都市の間の格差も開いているんじゃないか,という印象がある.ソウルと東京の差はどんどん縮まっている印象があるし,ロンドンと東京だとロンドンのほうが物価遥かに高かったし.2006年の夏にUK旅行したときはあまりに円が弱くって,自分が発展途上国からきた旅行者なんじゃないかって錯覚に陥った.

日本の一人当たりGDPが世界18位に転落したってニュース,あんまり報道されてないけど,危機感持ったほうがいい.90年初頭は2位だったのに,この18年で日本は一人負けしてるってことだ.

で,これまでみたく地方が東京に依存する状態のままだではいけない.この状態から脱せないと,日本全体が沈没しちゃう.東京は,もはや地方の面倒をみつつ世界と戦えるだけの戦力はない.

地方は地方で自立発展しつつ東京を追い抜くくらいでないといけない.日本の問題は地方から解決したほうが良い,と最近思っていたら,はてなが京都移転するってニュースが.

米国から京都へ はてな近藤社長の真意は

東京から離れ、大勢から距離を置いた京都。ネットの力を信じる人が集まり、ここが日本のシリコンバレーのようになれば面白い。

近藤さん,かっこいい.

(補足)
「東京の戦力」って何ということについて,ちょっと自分でも思考が浅いなと思います.一人当たり実質所得とかってことを言いたいのかな.

すごいぜTaisuke Otsu!

Taisuke OtsuのCVを昨日ひさしぶりに見てみたら、随分と業績が増えている・・・!Econometric Theory3本にJournal of Econometrics1本。すげー。エコノメ理論の分野でこれらより格上のジャーナルだともうEconometricaしかないし。

うちの大学出身で世界レベルの研究者が生まれるとは信じられん。断トツとはこういうことを言うのか。こんくらいのレベルになるときっと楽しいんだろうなー。でもYaleのプレッシャーはすさまじいに違いない。負けずに頑張って欲しい。

『使える!確率的思考』の読書感想

これ、良書。確率論、統計学などの一般向け啓蒙書といった感じ。この分野にあまり馴染みのない人が最初に読む一冊として適している。「大学で統計学勉強させられたけど、あれってなんの役に立つの」って人にもおすすめ。

 目次

1 世界は不確実性に満ちている(ツキに法則ってあるの?
確率法則ってなに?
確率だって使いよう)
2 データの眺め方ひとつで世界は変わる(統計も見方ひとつでとっても面白い
標準偏差で統計の極意をつかむ
確率の日常感覚はゆがんでいる)
3 確率と意思決定(ビジネスに役立つベイズ推定
人は、観測できない世界を見落とす
真似することには合理性がある)
不確実性下における選択の正しさとは何か

数式やグラフもちょっとだけ登場するけど、基本的に文章のみで確率論・統計学を説明しようとしている。確率には主観的な捉え方と客観的な捉え方の二つがあるという哲学的な話から、サイコロを振って円周率を推定する方法(モンテカルロ法)のような知的におもしろい話も紹介されている。さらにデータを注意深く見る事で、おもわず「へぇ」と言ってしまいそうなトリビアも出てくる。(たとえばスポーツ選手は3月生まれが少ないという発見や、誕生月の一ヶ月前より一ヵ月後のほうが死亡する割合が多いという事実が、人間はおめでたいイベントまで気力で生きながらえることができることを示唆している、など。)

スパムフィルターなんかで使われるなど、最近ビジネスでも重宝されているベイズ推定についても触れている。ベイズ統計学は古典的統計学と根本的に考え方が違うのだが、本書の解説は非常に分かりやすい。というか、数式をほとんどつかわずにこれだけ簡潔にベイズについて説明できているのは、素晴らしい。

(補足)
著者の小島寛之先生は、数学科出身の数理経済学者らしく、経済学にも話題がすこし振られている(参照)。

(補足2)
終章「不確実性下における選択の正しさとは何か」はたった数ページだけど、読み応えがあった。不確実性における「合理的な選択」が必ずしも「正しい選択」とは限らないよ、というお話。ここで「合理的」とは期待利得最大化という意味で、「正しい」の定義は、曖昧にされているのだが、だからこそ、読者それぞれの考える「正しさ」とは何ですか?と問われているような印象を受けた。

『実践経営哲学』の読書感想

松下幸之助の本。まえがきによれば本書は、「六十年の事業体験を通じて培い、実践してきた経営についての基本の考え方、いわゆる経営理念、経営哲学をまとめたものです。」

目次は以下のようになっている。この目次は、松下幸之助が経営者として、そして人としていかに優れているかを感じさせるに十分である。

まず経営理念を確立すること
ことごとく生成発展と考えること
人間観をもつこと
使命を正しく認識すること
自然の理法に従うこと
利益は報酬であること
共存共栄に徹すること
世間は正しいと考えること
必ず成功すると考えること
自主経営を心がけること
ダム経営を実行すること
適性経営を行うこと
専業に徹すること
人をつくること
衆知を集めること
対立しつつ調和すること
経営は創造であること
時代の変化に適応すること
政治に関心をもつこと
素直な心になること

本書を読んで、経営者はみな、自分なりの「経営哲学」を練り上げなければならない、ということを強く認識した。分析の枠組み・知識・方法論はビジネススクールに通えば学べるのだろうが、「経営哲学」はおそらく学校では学べない。自分なりの「経営哲学」を確立するには、経験を積み自分の頭で考える癖をつけなくてはならない。

そのためには、本をたくさん読み、人の話に耳を傾け、歴史から学び、自分自身の経験から学び、そしてなんといっても常に自分の知識を継続的に更新していく必要がある。

ミクロ経済学の教科書のように無味乾燥な文章ではなく、現実の経済で生産者として行動してきた松下幸之助が書く文章には、重みがあった。

『その数学が戦略を決める』の読書感想

このエントリーのキーワード:IT;計量経済学;統計学;データマイニング;ミクロデータ;科学;帰納法;演繹法;専門家;回帰分析;無作為抽出;Google;個人データ;プライバシー;政策決定;科学的意思決定

I love this book. ここ数年で読んだ本の中で、Top5には入る。

僕の頭の中に「これから世界はこう変わるだろう」というあるイメージがずっとあって、いつかブログで文章にしようと思っていたんだけど、そのイメージがそっくりそのまま本書で文章化されていました、という印象。「どうして著者は、俺が考えていることが分かるの?」という感じ。笑

で、内容。世の中には、いろいろな専門家がいて、彼らは自分の経験や直感などに基づいた、「専門家の意見」なるものを大衆に披露したりする。例えば、「野球のスカウト」や「ワインのプロ」といった専門家などだ。彼らは、自分の目や舌などで将来のドル箱スターや化け物ワインを発掘(予測)するのが仕事なわけだ。ところが、回帰分析に基づいた予測のほうが、こういう専門家よりも予測精度が高いという事実が明らかになってしまう。

回帰分析とは統計学の手法の一つで(そして計量経済学の中心的な手法でもある)、たとえばワインの例でいえば、「気温が何度くらいで、降水量がどれくらいだったか」といった条件のもとで、「どういう値段のワインが出来上がるか」という、因果関係を明らかにしてくれる。データを使って回帰分析する分析者は、ワインのことなどよく知らない素人なのに、この素人による回帰分析結果のほうが、「専門家」よりも予測精度が高いというのだ・・・!

従って、本書に登場する対立構図は、「回帰分析者 vs 専門家」ということになる。本書では繰り返し、「回帰分析者」の優位が説かれるが、だからといって、「専門家」が職を失うことはない、と著者が主張している点がおもしろい。ちょっとテクニカルな言葉を使うと、「回帰分析」を行うには、どの説明変数を入れるべきか、ということを含め、どんなモデルを想定するのか、ということを考えなくてはならない。「専門家」の今後の役割は、この「どの説明変数を入れるべきか」を考えることにシフトしていくだろう、というのが、著者の予想。さらに、「専門家」は職を失わないが、社会的地位や権威や給料は低下するだろう、とも述べている(「専門家」には、医者も含まれる!)。禿同。

そして僕の予想では、著者の予想は経済学の世界でも例外ではないだろう、と思う。つまり、経済学者という「専門家」も、「回帰分析に入れるべき変数を指定する」のが仕事になっていくだろう、ということ。「計測なき理論」をやっている理論経済学者は減り、「理論なき計測」だとしても現実経済をよくするような実証研究が出来る計量経済学者が重宝されるだろうな、ということ。

Freakonomics Intl Pb: A Rogue Economist Explores the Hidden Side of Everything (邦訳は『ヤバイ経済学』)を楽しめた人は、きっと本書も楽しめる。Levittの『ヤバイ経済学』や本書などを読むと、経済学も少しは現実経済に目を向けるようになっていくのかな、と好印象を持った。いい加減、理論偏重の経済学者には数学のToy modelで遊ぶのは卒業してほしい。 How many toy models have you guys made so far? Enough! Stop it, please!

(補足)
これからは、もっともっと個人のデータが蓄積されていくので、ミクロ計量経済学がもっと発展すると思う。その結果、多くのミクロ経済理論が棄却されまくって理論家の考える理論のほとんどが妄想でしかない、ってことが明らかになる時代がすぐそこまで来ていると思う。

(補足2)
統計手法は、「回帰分析」だけではないが、「回帰分析」が一番人気のある分析方法なので、このエントリーでは単純化するために、「回帰分析者」ということばをつかった。実際には、膨大な統計データを分析する人のことを、原著では “Super Crunchers”と呼び、邦訳では『絶対計算者』と呼んでいる。本書でも、回帰分析のほかに、「無作為抽出法」という統計学の手法が紹介されている。

(補足3)
誤解をおそれずに大胆な言い方をすれば、計量経済学≒統計学≒多変量解析≒データマイニング≒データ解析と考えてもらって構わない。

(補足4)
訳者が山形浩生さんということで、安心して邦訳を読みました。原著を読むと読書スピードが1/5くらいになるので。笑

(補足5)
経済学部の学生が本書を読めば、いますぐ計量経済学の勉強を開始したくなるはず。計量経済学がいかに実世界で役立つか、ということを認識させられた。僕は計量経済学を専攻して、本当に良かった。

 

『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』の読書感想

これは友達に薦められて読んだ本.アメリカで250万部売り上げたベストセラーのビジネス書ということだが,確かに面白かった.知的に面白いし,実践でも役立ちそう.

内容は,業績が悪化してる工場の所長が,試行錯誤しながら業績を改善していくというストーリー.小説に仕立てているので,分かりやすくさらっと読めてしまう.さて,タイトルの『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か』であるが,本書では,「企業の目標は,お金を儲けること」と定義している.この当たり前の定義を確認するところから物語は始まる.主人公は,「企業の目標(ゴール)はお金を儲けることで,そのゴールに近づけるように全体最適化問題を解けなければならない」ということに気付く.それまでの主人公は,一部分のみをみて,部分最適化問題を解いていた.例えば,製造現場ではついつい「コスト削減」「生産効率の上昇」などを目標にしがちだが,本来の目標は,「お金を儲けること」なのである.だから,「一製品あたりの製造コスト」や「機械や労働の生産性」などといった部分的な指標をみてはいけない.ゴールに近づくために見るべき指標は,「スループット(販売を通じてお金を生み出す割合)」「在庫(販売しようとする者を購入するために投資したすべてのお金)」「作業経費(在庫をスループットに変えるために費やすお金)」の三つであると本書で出てくる.スループットを上昇させ,在庫と作業経費を低下させるようなマネジメントがやるべきことであると.

部分最適化問題の解と,全体最適化問題の解はずれることがあるので,前者を考えていると実は工場マネジメントは最適化されないよ,という具体的な例が出てくる.「何もせずに工場内で暇そうにしている作業員がいるのは悪いことか」という質問に対して,主人公は「もちろん悪いことだ」と述べる.しかし,実際にはかならずしもそうではないことがあきらかになっていく.主人公は次第に,生産過程の中で,一番生産性が低い生産過程(これを本書ではボトルネックと呼んでいる)のペースにあわせて,他の生産過程(これを本書では非ボトルネックと呼んでいる)のペースを落とすべきだということに気付く.そうではないと,非ボトルネックで作る部品は常に余剰在庫になり,在庫が増えることで管理コストが増えるからである.逆に,ボトルネックをフル稼働させなかった場合,それは工場全体の売り上げ(スループット)の減少に直結するという.ボトルネックの生産能力=工場全体の生産能力,だからである.

単純な話で,一列に隊を為してあるき,全員が目的地にたどり着くには,太った一番ペースの遅い隊員が目的地にたどり着く必要がある,ということ.早くたどり着く人もいるが,彼らは結局,この太った隊員の到着を待たなくてはいけない.結局,この待機コスト(=在庫コスト)の分だけ余分なお金がかかるので,早く歩ける隊員も,太った隊員にペースを合わせたほうが,全体での消費カロリー(=作業経費)は減るので,良いことだ,ということ.この例では太った隊員が,ボトルネック.

ボトルネックの前後での生産過程は,生産ペースをボトルネックにあわせる必要があるが,ボトルネックでの仕事がなくなることは絶対に避けなければならないので,ボトルネックのところで,「ボトルネックでの仕事待ち状態になってる部品」がある程度たまっていなくてはいけない.そのためには,非ボトルネックには,余剰生産能力が求められる.すべての生産過程が,「需要に見合ったピッタリの生産能力を持っている」ような,一見理想的なバランスのとれた工場は,実はとても非効率的である,という結論が導き出される.

本書で印象に残った概念として,「依存的現象」と「統計的変動」という二つがある.「依存的現象」とは,生産過程にはいじれない順番があるということ.「統計的変動」とは,例えば,仮に生産過程1,2,3の三つの工程からなる生産ラインがあるとする.それぞれの過程では,平均すれば一時間で100個の部品をあつかえるとしよう.3時間後に100個すべてが処理されているか,というと現実には違う,ということ.例えば,最初の1時間で生産過程1で95個しか作れなければ,生産過程2ではそもそも95個しか投入されない.この95という数字は,生産過程2で減ることはあっても増えることはない.仮に95個全部を生産過程2で扱えたとしても,生産過程3で同じことに直面する.生産過程が長ければ,この問題はより深刻になる.だから,生産過程1で,例えば最初の1時間で95個,次の1時間で105個,合計2時間で200個を扱って,「うちのところはこの2時間でやるべき仕事をこなした」といっても,最終ラインでは期待された時間(4時間後)で200個は完成しないということになる.つまり,生産ラインの最初の方は,最後の方よりも生産能力が高い必要がある,ということ.

本書は生産サイドの本だったので,今度は営業サイドの本でおもしろそうな本を見つけて読んでみたいと思います.それから,経理,マーケティング,ファイナンス・・・などなど,学びたいことはたくさん!

サブプライム問題について少し分かってきた気がする

『サブプライム問題』ってエントリーを書いてから,また少し自分で勉強した.

1)アメリカで資金はジャブジャブあって,貸付先を探していた.
2)貸付先の一環として,サブプライムローンに資金が行った.
3)住宅価格が上昇局面では,サブプライムローン債務者が返済できなくなっても,担保となってる住宅を売れば返済できた.
4)返済できるどころが,売買益すら得られることが分かった.
5)サブプライムローンはその定義上,通常ローンよりも金利が高い(=貸し付ける方からすると利回りが高く,おいしい貸付先ということ).にも関わらず,2),3)のような状況だったので,貸し倒れリスクは低いように見えた.
6)調子に乗って,サブプライムローンをどんどん貸し付けた.かなり強引な手法で低所得者層に,サブプライムローンを買わせた.
7)証券化すればリスク分散できるので,証券化した.
8)証券化したものを,さらに繰り返し証券化したりした.その結果,米格付け機関(ムーディーズなど)が、サブプライムローンを組み込んだ住宅ローン担保証券を正しく評価できない状態となった(実力よりも高く格付けしていたということ).
9)この証券化された住宅ローン担保証券を誰が保有したかというと,商業銀行や投資銀行などの金融機関.証券化された資産は安全なので(特に繰り返し証券化されたことによって,サブプライムローンが組み込まれていることが分かりにくくなって安全だとカンチガイしたってこと.実際,8)でも書いたとおり,米格付け機関も安全だとカンチガイしてしまったわけで),安全資産を持ちたいという気持ちの強いアメリカの商業銀行なんかは,住宅ローン担保証券に手を出してしまったというわけ.
10)さて,住宅価格が上昇している局面では問題はないことに注意しよう.なぜならば,返済が滞るサブプライム債務者がほとんど出現しないためである.
11)ところが,住宅価格上昇率が2006年に入って以降急速に鈍化!ここから問題が表面化する!
12)サブプライムローン債務者の返済が滞るようになる.住宅ローン担保証券が紙くずになったりするわけ.住宅ローン担保証券を保有する商業銀行や投資銀行は損失を計上するようになる.
13)金融機関は,貸出基準をきつくするので,追加融資を切望するサブプライムローン債務者のもとに資金は回ってこない.
14)サブプライムローン債務者の返済が滞りがさらに増える.より多くの住宅ローン担保証券が紙くずになったりするわけ.住宅ローン担保証券を保有する商業銀行や投資銀行はさらに損失を計上するようになる.
15) 12)~14)をループし,結局,住宅ローン担保証券を保有する商業銀行や投資銀行は莫大な損失を計上してしまう.(ゴールドマンサックス以外,軒並み損失を計上したってニュースや,Citiにアラブが出資したってニュースや,メリルリンチにみずほが12億ドル(約1300億円)出資したってニュースが記憶に新しい.)
16)金融不安発生!
17)株安,ドル安などになり,アメリカ経済先行きが怪しくなってきており,さらに世界株安などを引き起こし,世界経済を不安に陥れている ← 今ここ

1)のところで,どこから資金がジャブジャブ出てきたのか,ということを考えてみたんですが....「各国中央銀行が資金を供給しまくった」と下の参考にあげたIMFのページにはあったんですが.僕は,日銀の低金利や量的緩和みたいな金融政策によって,金がジャブジャブアメリカに流れた,という影響も大きいのかな,と思う.日米間の金利格差がある上に,量的緩和でジャブジャブ資金を垂れ流したので,日本からアメリカに資金がジャブジャブ流れていったのかな,ということです.

某外資系金融機関に勤める人も,「2008年は,過去数十年の中で一番つらい年の一つになる」と言っていたな.大変ですね.自分とその家族の資産は自分で守るために,これからも世界経済のお勉強はちゃんと続けよう.

なんかコメントあったら,適宜ツッコミ希望.

(参考)今回さんこうにしたページをいくつか.

経済,金融,国際情勢,ぜんぜんわかりません,って人は,以下を見るとよいでしょう.漫画のようによめて,それなりに正しいことが書いてあると思います.

やる夫で学ぶサブプライム問題

あと,ウィキペィアの記述が,やっぱりけっこう参考になります.

サブプライムローン@ウィキペディア

それから,これは以前のコメントで知ったやつですが,けっこう参考になりました.

Lessons from Subprime Turbulence @ IMFSurvey Magazine: IMF Research

特に,

Investors have placed excessive trust in rating agencies’ approach to
structured credit. The ratings methodology for corporate credit risk is
fundamentally different from that used for structured credit and yet
the ratings that result are placed on the same scale, implying similar
potential losses. To avoid future confusion, ratings for the different
types of obligation should be clearly distinguished and investors
should never just rely on ratings to determine investment policy.

というところが,なかなか鋭い指摘だと思った.structured creditとは,マクロリスクのことで,corporate credit risk や個別のサブプライムローンのようなミクロリスクとは,分離してかんがえないといけない,ということだろう.格付け機関や,住宅ローン担保証券を保有していた米の金融機関が,サブプライムローンが証券化されて組み込まれた住宅ローン担保証券というstructured creditを正しく評価できなかった,ってことだろう.