公平という概念は経済学では扱わない

Fair Taxes? Depends What You Mean by ‘Fair’ @NY TIMES
億万長者のWarren E. Buffettが,「もっと金持ちに課税するべきだ」と発言したことについて,Gregory Mankiwが記事を書いている.Mankiw Blogに,アメリカにおける所得別の課税率が示されている.この表をみて,「もっと金持ちに課税するべきだ」と考えるか「もう十分金持ちには課税がかかっている」と考えるかは,個人の判断に依存する.そう,経済学では「公平」という概念をほとんど考えない.
リンク先のNY TIMESの記事で,

Fairness is not an economic concept. If you want to talk fairness, you have to leave the department of economics and head over to philosophy.(公平性は経済学で考える概念ではない.公平性について議論したかったら,経済学部ではなく,哲学科に行きなさい.)

とMankiwも明言している.気持ちいいくらいの開き直りにも見える.経済学を知らない人は,経済学者の意見に「それは公平でない」といったりするけど,そもそも,「あなたの考える『公平』ってなに?」と経済学者は考える.所得の公平を考えるのは社会主義.機会の公平を考えるのが資本主義.
そうはいっても,機会の平等を確保した結果,格差社会が生まれると,「格差社会は問題だ.不公平だ.」と言う人が出てくる.でも,「公平」ってどういう意味でいってんだろう?
たとえば,以下のようなことを考えてみる.
(i)所得最下層が,「食うに困っている」状況ならば,即刻なんとかしないといけない.
(ii)最下層の子供がやはり最下層になる社会も良くない.最下層の家庭に生まれると教育にお金をかけられず一流大学にいけず,一流企業に就職できないからやっぱり大人になったとき貧乏になってしまう,という経路を経て,格差が世代間で再生産されるおそれがあるが,それはよくない.
(i)で考えているのは,「いくら資本主義・競争主義がいいと考えたとしても,競争に負けたひとが死ぬような社会はよくない」ということ.競争に負けても最低限人間らしい生活が出来ればよい,と.ここで「最低限」のレベルをどう考えるかは,またまた個人の判断で,これについて「私はこう思う」と述べるのが政治家の責任だと思う.経済が豊かになればなるほど,この「最低限」レベルも上がっていくのだろう.
(ii)で考えているのは,「機会の平等」を確保した結果,競争に負ける人と勝つ人が出てきて,その子供世代では「機会の不平等」が生まれてしまうことを懸念している.実際,トップの大学に通う学生の親の収入って,おそらく普通の大学にかよう学生の親の収入より結構高いんじゃないか?
日本でいま格差社会の議論が多くって,特に野党は格差問題を取り上げがちだけど,「格差社会だ,不公平だ,金持ちにもっと課税しろ」という,いかにも大衆ウケしそうな,単純な議論はやめてほしい.
(補足)
・Buffett発言は,彼の所得はCapital Gainからのものが大きいため,彼に対する税率は,ほかの大金持ちに比べて低いことが背景になる.Capital Gainは株があがったり配当が増えたりすることによる利得だけど,株式配当の源泉は企業の利益で,この企業利益にはすでに課税されているわけだから,「二重課税」になっている点で,そもそもCapital Gainに対する課税は高くあってはならない,という議論もある.この点を注意.
・Buffett発言は,Hillary Clintonの後援会みたいなところで起こったらしい.アメリカ民主党は,「自由と平等」だと「平等」を重視する政党で,どちらかというと貧乏人の味方である.だから,民主党支持者にとっては,Buffett発言は支持率上昇のためのかっこうのネタとなったのだろう.「大金持ちのBuffettが,『もっと金持ちに課税するべきだ,現状は不平等だ』と言っている」,というのは,大衆の支持をいかにも受けやすそうだからだ.

コメント

  1. ご参考 より:

    マンキューの指摘とは別の観点で、財政学では「最適所得税制」の分野において、所得税を50%超にするのが好ましいという議論が出てきています。フリーソフトのご紹介のお礼にご参考まで。
    https://netplus.nikkei.co.jp/nikkei/econotre/eco070509_4.html
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  2. daniel より:

    コメントとリンクありがとうございます.

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