“The Invisible Heart: An Economic Romance”の読書感想

 

高校教師SamとLauraの恋愛模様を,二人の異なる考え方を対立させつつ描いている.Samは経済学修士号を持つ新古典派信奉者で,市場に全部任せるのが良いのだ,政府の介入は無いほうがよいのだ,というスタンスを貫いている.Lauraは文学の教師で,弱い立場の人を法律で守るべきだと考えている.
数日前に書いた『シートベルトを義務化する法律』というエントリーは,実はこの本のpp.20あたりをベースに書いた.この本では,このようなやりとりがSamとLauraの間で延々と繰り返される.
LauraはSamのような考え方に初めて触れたらしく,最初は「あなたは冷たい人間だ,困ってる人は助けるべきだ」と反発するのだが,Samは頑としてLauraの反論に対して理論的に言い返し,「慈善の気持ちではなく,Self-Interest(利己心)があるからこそ経済は発展し,良い状態が実現するんだ」と主張し続ける.他方,Lauraは理屈でものを言うというより,感情や思いやりの気持ちから自分の意見を述べる.
本を通してSamの主張が理屈を伴って繰り返され,LauraはだんだんSamの考えを理解していく.したがって,本書はLauraタイプの人間(つまり,経済学をまったく知らない人間)に対する,経済学の啓蒙書となっている.恋愛小説の形式にしているあたり,本書のターゲットがそういう人であるという著者の意図は丸分かり.
邦訳版もある.

かなりオススメ.読みやすいし,ベストセラーになってもおかしくないと思う.

博士の生き方

こんなウェブサイトを発見.
http://hakasenoikikata.com/
『博士の生き方』という名前のサイトなので,えぐい情報がのってるのかと思ったら,さらっと見たら,理系の博士の話らしく,あまり悲観的なことは書かれていない.むしろ,トップページに

「博士の就職は難しい」このようなことを大学にいてよく聞いてきました。私は思うところあり、企業への就職という選択をしましたが、実際に就職活動をしてみて博士だからといって就職が不利になるという感覚はいだきませんでしたし、内定も無事に得ることができました。

とあるように,けっこう楽観的.つーか,これ,本当かよ?
文系に限った場合はどうなんでしょ.経済学に限った場合はどうなんでしょ.私立か国立かでも状況は違うのかな.大学によってもけっこう違うんだろうな.
このブログを読んでる人で,院進学を考えてる方は,よーく自分が行こうとしてる大学院の院生の進路状況について調べることを薦めます.こんな都市伝説は誇張だとしても,けっこう院は悲惨な側面も確かにあります.
特に,シュウカツ失敗したから院行こうかな,って思ってるひとは,ぜったい院にきても辛いだけなのでぜったい辞めたほうがいいと思います.

シートベルトを義務化する法律

というわけで,このカテゴリーの第一弾.「シートベルトを義務化する法律」について考える.多くの人は,賛成するのかな,きっと.でも,典型的な経済学者は,この法律に反対する.
確かに,シートベルトをしたほうが安全.でも,だからといって,「なぜ政府が国民に強制するのが良し」という結論が出てくるんだろう?いや,なんとはなしに,そういう法律があったほうが,事故が起きても死亡率は低くなるだろうし,いかにも良さそうではある.でもほんとかな?法律に反対する経済学者Sくんと,法律に賛成するフィアンセのNさんの会話を妄想して,解説してみる.

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新規カテゴリー作成

経済学入門(Intro to Econ),というカテゴリーを作成してみました.このカテゴリーでは,経済学をあまり知らない人にむけて,経済学についてカンタンに紹介していくことを目指します.経済学の大学院で修士2年になった今,ある程度経済学についての知識がついたと思うので,自分のあたまの整理&啓蒙がてら,書いてみようか,と.「現実経済を説明しよう」カテゴリーでは,けっこう高度な話も出てきていたけど,このカテゴリーでは,高校生でも理解できるように書こうと思います.
僕自身,経済学部に入学してから,高校のときに抱いていた経済学に対するイメージと,実際の経済学の乖離にびっくりしました.経済学というと,なんとなく,「ビジネス」や「金儲け」とかについて勉強する学問だと思っていた.
が,まったくそれは違います.経済学とは,「最適な資源配分について研究する学問」です.とこう書くとまたわけがわからないのですが・・・まぁ,経済学的思考とか,経済学者はこう考える,とか,経済学の雰囲気を味わってもらいたいと思います.

英文を読み上げてくれるフリーソフト

これはすごい.
http://www.readplease.com/english/downloads/#rp2003
読み上げて欲しい英文をコピペして,Playってボタンをクリックすると,読み上げてくれる.すげー.かなり滑らか.発音はもちろんネイティブ.しかも文章と文章の間の呼吸,節の区切りなど,イントネーションが完璧に近い.
Listening弱い人は勉強になるかもしれない.

公平という概念は経済学では扱わない

Fair Taxes? Depends What You Mean by ‘Fair’ @NY TIMES
億万長者のWarren E. Buffettが,「もっと金持ちに課税するべきだ」と発言したことについて,Gregory Mankiwが記事を書いている.Mankiw Blogに,アメリカにおける所得別の課税率が示されている.この表をみて,「もっと金持ちに課税するべきだ」と考えるか「もう十分金持ちには課税がかかっている」と考えるかは,個人の判断に依存する.そう,経済学では「公平」という概念をほとんど考えない.
リンク先のNY TIMESの記事で,

Fairness is not an economic concept. If you want to talk fairness, you have to leave the department of economics and head over to philosophy.(公平性は経済学で考える概念ではない.公平性について議論したかったら,経済学部ではなく,哲学科に行きなさい.)

とMankiwも明言している.気持ちいいくらいの開き直りにも見える.経済学を知らない人は,経済学者の意見に「それは公平でない」といったりするけど,そもそも,「あなたの考える『公平』ってなに?」と経済学者は考える.所得の公平を考えるのは社会主義.機会の公平を考えるのが資本主義.
そうはいっても,機会の平等を確保した結果,格差社会が生まれると,「格差社会は問題だ.不公平だ.」と言う人が出てくる.でも,「公平」ってどういう意味でいってんだろう?
たとえば,以下のようなことを考えてみる.
(i)所得最下層が,「食うに困っている」状況ならば,即刻なんとかしないといけない.
(ii)最下層の子供がやはり最下層になる社会も良くない.最下層の家庭に生まれると教育にお金をかけられず一流大学にいけず,一流企業に就職できないからやっぱり大人になったとき貧乏になってしまう,という経路を経て,格差が世代間で再生産されるおそれがあるが,それはよくない.
(i)で考えているのは,「いくら資本主義・競争主義がいいと考えたとしても,競争に負けたひとが死ぬような社会はよくない」ということ.競争に負けても最低限人間らしい生活が出来ればよい,と.ここで「最低限」のレベルをどう考えるかは,またまた個人の判断で,これについて「私はこう思う」と述べるのが政治家の責任だと思う.経済が豊かになればなるほど,この「最低限」レベルも上がっていくのだろう.
(ii)で考えているのは,「機会の平等」を確保した結果,競争に負ける人と勝つ人が出てきて,その子供世代では「機会の不平等」が生まれてしまうことを懸念している.実際,トップの大学に通う学生の親の収入って,おそらく普通の大学にかよう学生の親の収入より結構高いんじゃないか?
日本でいま格差社会の議論が多くって,特に野党は格差問題を取り上げがちだけど,「格差社会だ,不公平だ,金持ちにもっと課税しろ」という,いかにも大衆ウケしそうな,単純な議論はやめてほしい.
(補足)
・Buffett発言は,彼の所得はCapital Gainからのものが大きいため,彼に対する税率は,ほかの大金持ちに比べて低いことが背景になる.Capital Gainは株があがったり配当が増えたりすることによる利得だけど,株式配当の源泉は企業の利益で,この企業利益にはすでに課税されているわけだから,「二重課税」になっている点で,そもそもCapital Gainに対する課税は高くあってはならない,という議論もある.この点を注意.
・Buffett発言は,Hillary Clintonの後援会みたいなところで起こったらしい.アメリカ民主党は,「自由と平等」だと「平等」を重視する政党で,どちらかというと貧乏人の味方である.だから,民主党支持者にとっては,Buffett発言は支持率上昇のためのかっこうのネタとなったのだろう.「大金持ちのBuffettが,『もっと金持ちに課税するべきだ,現状は不平等だ』と言っている」,というのは,大衆の支持をいかにも受けやすそうだからだ.

『意思決定のための「分析の技術」―最大の経営成果をあげる問題発見・解決の思考法』の読書感想


マッキンゼーのコンサルタントだった後さんが,「経営をするための分析とはこうしてやるのだ」と方法論を紹介している本.マニュアル本.紹介されている内容は高品質.が,読んで納得するのは簡単だが実践で活用できるのは難しそう.場数踏まないとダメだな.というわけで,経営者がみんな後さんが持つような「高い分析力」を会得・実行するのは不可能なので,やはりコンサルという職業は必要なんだろう.
印象に残ったのは,pp.202

ハーバード・ビジネススクール(HBS)は,経営は科学ではないという立場をとる学校である.

ずっとこのpp.202まで本書を読んでいて,どことなく違和感を感じていたのが,この一文で解消された.僕はずっと経済学の大学院というアカデミックな世界にいて,経済学とは一応,科学だから,科学的な思考に慣れきってしまっていたから,どうも本書で書かれている「分析の仕方」は違和感を覚えていたのだ.科学は常に客観性を求めるが,本書ではありとあらゆる分析の場面でどうも主観が混じりまくっているなぁ,と思ったわけ.
考えて見れば,経営が科学でないなんて当然.もし科学であれば,経営する上での法則,定理なりがあって,それに従えば誰も失敗なんてするはずがないし,経営トップが誰であっても,ビジネスは成功してしまう.個人の性格,経験,直感などの個性(つまり主観)に基づき経営の意思決定をし,その結果として事業が発展したり衰退したりする.つまり,経営が科学なわけないってこと.